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フォーラム記事

高橋 孝治
2023年7月03日
In 海外リーガル Overseas Legal
 日本の複数のウェブメディアなどでは、中国で改正反スパイ法(反間諜法)が2023年7月1日から施行されたことを懸念と見ています(反スパイ法は、もともと2014年11月1日主席令第16号公布・施行。2023年7月1日施行分の改正は、2023年4月26日主席令第4号公布)。それでは、反スパイ法はどのように改正されたのでしょうか。ここではこれを見ていきます。なお、改正前の反スパイ法については、筆者が既に2015年時点で評論を発表しており、そちらを参照いただきたい(「スパイの定義わかりますか?中国『反スパイ法』と特定機密保護法の共通点」(KINBRICKSNOWウェブサイト)〈https://kinbricksnow.com/archives/51959302.html〉(2015年10月16日更新))。  それでは、反スパイ法はどのように改正されたのでしょう。日本での改正反スパイ法の評価は以下のようなものになっています。「『反スパイ法』はスパイ行為について、これまで『国家機密』を盗んだり提供したりすることなどとしていました。改正法では『その他の国家の安全と利益に関わる文書やデータ』の提供などもスパイ行為とされ、適用範囲が拡大されています」(注1)、「 改正『反スパイ法』では、スパイ行為の定義に「国の安全や利益に関わる文書やデータ」などを加えるほか、捜査を行う当局の権限を強化します。(改行)また、『その他のスパイ活動』というあいまいな定義も残されています」(注2)。  確かに改正前第38条に列挙されていたスパイ行為の定義と比べると、改正後第4条のスパイの定義は、以下の項目が増えています。 ・スパイ組織およびその代理人に協力すること(改正後第4条第2号) ・国家安全保障および利益に関連するその他の文書、データ、資料、および物品、または国家公務員の反乱を扇動、誘惑、脅迫し、または買収する活動(改正後第4条第3号) ・スパイ組織およびその代理人が、国家機関、機密関連のネットワーク基礎施設などへのサイバー攻撃、侵入、妨害、制御および破壊を実行する、または他の者にその実行を扇動もしくは資金提供する行為、または国内外の機関、組織、個人がそれらと共謀して、これらの行為を行った場合(改正後第4条第4号)  確かに上記ニュースでも報じられているように、「その他の国家の安全と利益に関わる文書やデータ」の提供がスパイ行為になると改正後第4条第3号では規定されています。日本ではあまり話題になっていませんが、確かに世界中で現在「安全保障」について話題になるのは「軍事」ではなく、「経済安全保障」の方です。経済安全保障とは、特定の国と経済関係を強化して、相手国に「あの国と戦争になって、あの国からの輸入品が入ってこなくなったら、我が国の経済も大打撃を受けるからあの国との戦争はやめておこう」と思わせ、安全保障を実現するという方法です。  このように考えると、単なる経済データも国家安全保障に関係するデータに該当する可能性はあります。しかし、通常、ある国家の経済情報を見る場合には、その国の政府が公表している公開データを使うものなので、そこまでの懸念はないでしょう。  むしろ、改正前の反スパイ法にも規定されている「『その他のスパイ活動』というあいまいな定義も残されています」という、結局中国政府が決定さえすれば何でも「その他のスパイ活動」に該当し得るという規定の方が問題です。その意味では7月1日施行の改正反スパイ法になぜそこまでの懸念があるとするのか日本の報道の方が理解し難い点があります。要するに、反スパイ法最大の問題となるどのような行為もスパイ行為とし得る条文は2014年11月1日旧法時代から既に存在しているのです。  ところで、改正反スパイ法の中国政府の説明にはおかしい部分もあります。改正後第4条第4号で規定されているように、改正反スパイ法が条文上最も加筆を行ったスパイ行為は、サイバー攻撃関係です。しかし、それにもかかわらず中国政府の説明では、スパイ行為は方法が多元化し、さらに隠蔽される手法も多くなっているためとしています(注3)。改正反スパイ法のような新しい条文を見ると、ここでは「サイバー攻撃などの方法によるスパイ行為も増えていることも法改正の一要素である」などの説明がないのはおかしいことになります。一応、反スパイ法改正の議論報告では、サイバー攻撃などへの対応を十分にとっているとの説明はなされていますが・・・・(注4)  このような説明が十分になされておらず、法律の草案の説明も簡素な者になっている点からも、いろいろと意図があるようにも見えます。しかし、スパイ行為の一部に「その他のスパイ活動」を含むという、どのような行為でもスパイ活動行為と認定し得る規定が引き続き存在している以上、取り立てて驚くものでもなく、2014年11月1日から日本企業の中国での活動がスパイ行為とされるのではないかという懸念は濃くなるわけでもなく、変わらず存在しているのです。 〈注〉 (1)「中国『反スパイ法』施行 違法行為の対象拡大」(YAHOO!JAPANニュースウェブサイト・TBS NEWS提供) 〈https://news.yahoo.co.jp/articles/c17944840770b9a1fca09bcdf0f5d47cf9e06dd8〉(2023年7月1日更新、2023年7月3日閲覧)。 (2)「中国で改正『反スパイ法』がきょう施行」(YAHOO!JAPANニュースウェブサイト・テレビ朝日提供)〈https://news.yahoo.co.jp/articles/71dc69826e1619affd32689a0dcdc307a697fd57〉(2023年7月1日更新、2023年7月3日閲覧)。 (3)呉玉良「関于《中華人民共和国反間諜法(修訂草案)》的説明」『中華人民共和国全国人民代表大会常務委員会公報』(2023年4号)全国人大常務会弁公庁、2023年、425頁。 (4) 王寧「全国人民代表大会憲法和法律委員会関于《中華人民経あ国反間諜法(修訂草案)》修改情況的匯報」『中華人民共和国全国人民代表大会常務委員会公報』(2023年4号)全国人大常務会弁公庁、2023年、426頁。
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高橋 孝治
2023年3月28日
In 海外リーガル Overseas Legal
中国・北京で日本の大手製薬会社・アステラス製薬の社員が拘束されました。中国の外交部(日本の外務省に相当)の毛寧・副報道局長は3月27日の定例会見でこの社員が「スパイ活動に従事した疑いがある」と述べました。 しかし、『朝日新聞』2023年3月28日付1面「中国『スパイの疑い』」は、「具体的な容疑事実は明らかにしなかった」と述べています。これを受けて、この日本人拘束の根拠法になったと思われる「反スパイ法(反間諜法)」に注目が集まっています。そして、「どんな企業活動が『反スパイ法』違反となるのか明示されていない」との指摘も出されています(註1)。しかし、これは厳密には正しくありません。反スパイ法第38条には明確に、反スパイ法の対象となるスパイ行為として、以下の行為を掲げています。 (1)スパイ組織およびその代理人が実施すること、他人が実施することを指示、援助すること、もしくは国家内外の機関、組織、個人およびそれに類するものと結託し中華人民共和国の国家安全活動に危害を与える場合 (2)スパイ組織もしくはスパイ組織およびその代理人の任務の受託に参加した場合 (3)スパイ組織およびその代理人以外の国外機関、組織、個人が実施すること、他人が実施することを指示、援助すること、国内機関、組織、個人およびそれに類するものと結託し国家機密または情報を窃取、偵察、購入または非法に提供すること、もしくは国家公務員を反動活動に策動、誘因、買収する場合 (4)敵のために攻撃目標を指示すること (5)その他のスパイ活動 しかし、反スパイ法では、「スパイ組織」に関する定義がなく、(5)でスパイ行為には「その他のスパイ活動」も含むとされているため、結局「何をもってスパイ行為とするのか分からない」というのは事実です(註2)。しかし、これは反スパイ法がいかようにも解釈できるという話しであり、「どんな企業活動が『反スパイ法』違反となるのか明示されていない」というわけではありません。 なお、今回の日本人拘束について、「今回の拘束が当局による政治的なメッセージとは考えにくい」という指摘があります(註3)。しかし、筆者はそのようには思いません。日本などでは、刑事法は「何かしら犯罪に該当する可能性がある行為がある→刑法などの条文に該当するかを検査する(構成要件該当)→正当防衛などの要件に該当しない(違法性)→被疑者が刑事責任年齢に達しているかなどの確認(有責性)→裁判所が刑罰を言い渡す」というプロセスを取ります。しかし、中国では刑事法はこれとは逆のプロセスを採っているのではないかという指摘があります。つまり、「社会危害性(国民の不安)が強く、刑罰を与えるべき行為がある→社会危害性を考慮してどのくらいの罰を与えるべきか政治的思惑も含めて決定する→与えるべき罰が定められている条文を探して刑罰を言い渡す」というプロセスです(註4)。つまり、「罰するか否か」、「どれくらいの罰を与えるか」が先であり、その後にちょうどいい罰を与えられる条文を探すことがあるのです。そのため、法律の条文からすれば「過失傷害罪」が成立すると思われる事例に「故意傷害罪」が適用されている例などが散見されています(註5)。 犯罪をする人が自ら「これから犯罪をするつもりだ」と言うはずはありません。しかし、仮にこの拘束された人に対する北京の日本人コミュニティでの「問題がある人物とは思えない」という評判(註6)が真実であったとしたら、やはり拘束について政治的判断が先にあったと考えるべきでしょう。いずれにしろ、新型コロナウイルス感染症下で、停滞していた日中交流に対して「経済交流を含む日中関係にも影響しそうだ」という指摘のとおりであると言えます(註7)。 <註> (1)「拘束滞在20年の中国通」『朝日新聞』(2023年3月28日付)3面。 (2) 筆者もかつて「『スパイ行為は取り締まるが、スパイ行為が何なのかはよくわからない』という反スパイ法、見覚えはないだろうか?そう、日本の特定秘密保護法と大差ないのである」と述べたことがある。高橋孝治「スパイの定義わかりますか?中国『反スパイ法』と特定機密保護法の共通点」(KINBRICKS NOWウェブサイト)〈https://kinbricksnow.com/archives/51959302.html〉2015年10月16日更新、2023年3月29日閲覧。 (3) 柯隆「雑談でも スパイ活動にされる可能性」『朝日新聞』(2023年3月28日付)3面。 (4) 高橋孝治『中国社会の法社会学――「無秩序」の奥にある法則の探求』明石書店、2019年、72頁。 (5) 高橋孝治『中国社会の法社会学――「無秩序」の奥にある法則の探求』明石書店、2019年、72頁。河村有教「現代中国刑事法の性格――刑事手続上の人権を中心として」神戸大学、博士学位論文、2006年、96~97頁。 (6) 「拘束滞在20年の中国通」・前掲註(1)3面。 (7) 「中国『スパイの疑い』」『朝日新聞』(2023年3月28日付)1面。
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高橋 孝治
2023年3月26日
In 海外リーガル Overseas Legal
当協会研究員の高橋孝治が、『日中建築住宅業協議会メールマガジン』(263号)に寄稿しました。以下、日中建築住宅業協議会メールマガジン編集部の許可を得た上で、当該寄稿を転載いたします。 ◇/ ◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\                         令和5年2月28日(火) Vol.263              【日中建築住宅産業協議会メールマガジン】                                                                           情報提供委員会 ◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\ ──────────────────────────────────────          ☆ 。* 。☆ 【高橋孝治の中国ビジネス法時事】  ☆ 。* 。☆ ────────────────────────────────────── ■(第2回)党と法 ※「法院」は中国の裁判所の意味です  2023年2月20日に中国の『人民法院報』という新聞の1面に「湖南: 党の法院に対する業務の絶対的指導を堅持(湖南:堅持党対法院工 作的絶対領導)」という記事が掲載されました。これによれば、湖 南省の高級人民法院は省内の中級法院の院長を全員集め、会議を開 催したそうです。その中で、終始党の法院に対する業務の絶対的指 導を守れと強調したそうです。  中国の司法から言えば、割と当然のことを言っていますが、なぜ いまさら強調するのでしょう。中国共産党中央は、地方レベルでは、 この党の司法に対する指導が不完全であるとの疑いを持っており、 再度強調しているのかもしれません。 【筆者紹介】  高橋孝治  環太平洋アジア交流協会 研究員/立教大学 アジア地域研究所 特任研究員  北京にある中国政法大学 博士課程修了(法学博士)。研究領域:中国法・  台湾法。研究の傍ら、中国ビジネスのコンサルティングや講演活動も行って  いる。法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。  台湾で「法律専家認証」(法律専門家認定)取得。『日中建協NEWS』にて  「理論と実務から見る中国法教室」を大好評連載中。  ご連絡は環太平洋アジア交流協会まで info@society-apa.com ★次回の配信予定は3/14(火)です。 ─────────────────────────────────────── 【情報提供委員会より】   お届けしております情報は、中国で公開されています記事に基づいています。  特に、数字や金額については、日本円への換算金額(1元=20円で換算)以外は  原文のまま記載しています。 詳細については各ニュースごとに添付しておりますURLをご参照ください。  (添付のURLは削除されている場合があります)   メールマガジンの配信をご希望される方は、下記の申込みフォーマットを「コピ ー&ペースト」して、horie@jcbh.orgまでメールにてご返信ください。 ≪メルマガ配信申込みフォーマット≫  企業名:  氏 名:  部 署:  役 職:  メールアドレス:
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高橋 孝治
2023年3月19日
In 世界経済 World Economy
 『日本経済新聞』2023年2月28日付3面には「外資の中国投資18年ぶり低水準」という題の記事が掲載されました。これによれば、米中対立の激化や改革後退の懸念から、2022年下半期(7~12月)の対中直接投資は18年ぶりの低水準となったということです。  しかし、逆に言えば新型コロナウイルス感染症により、国際ビジネスが大きく停滞した時期にも対中投資は大幅な減退はしなかったということでもあります。そのため、新型コロナウイルス感染症がある中での投資先としての中国の人気を再確認できたようにも思えます。  もしこの18年ぶりの低水準が本当に米中対立の激化が原因なのであれば、中国側がアメリカ側に歩み寄り、米中対立が緩和される可能性もあるでしょう。いずれにせよ米中対立の今後の動向が注目されます。
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高橋 孝治
2023年2月25日
In 海外リーガル Overseas Legal
当協会研究員の高橋孝治が、『日中建築住宅業協議会メールマガジン』(262号)に寄稿しました。以下、日中建築住宅業協議会メールマガジン編集部の許可を得た上で、当該寄稿を転載いたします。 ◇/ ◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\                         令和5年2月14日(火) Vol.262              【日中建築住宅産業協議会メールマガジン】                                                                           情報提供委員会 ◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\◇/◆\ ──────────────────────────────────────          ☆ 。* 。☆ 【高橋孝治の中国ビジネス法時事】  ☆ 。* 。☆ ────────────────────────────────────── ■(第1回)対外貿易法改正のその後/日中外相電話会談  中国の全国人民代表大会は、2023年2月2日午前8時35分にその公式 ウェブサイトに「試験運用から法改正まで:貿易の利便化が再び加速 (従試点到修法:貿易便利化再提速)」というウェブ記事をアップし ました(註1)。これによると2022年12月30日公布・施行で改正(主席 令第128号)された中国の「対外貿易法」によって、中国の貿易がさ らに活性化しているということです。  2022年12月30日の「対外貿易法」改正では、中国で対外貿易を行う 事業者は国務院対外貿易主管部門などに登記をしなくてはならないと いう第9条の規定が廃止されました。これにより中国で貿易業務参入 のハードルは下がりました。しかし、逆にいうと新型コロナウイルス 感染症による経済停滞がかなりひどく、貿易業参入につき登記不要と するくらいのテコ入れが必要という現実があるのかもしれません。  2月2日に日本の林芳正・外務大臣と、中国の秦剛(チン・ガン)・ 外交部長が電話会談を行いました。この中で、秦剛は以下のように述 べました。「中日は一衣帯水の近隣で、平和共存と友好協力が双方の 唯一の正しい選択だ。双方は歴史を鑑とし、初心を守り、妨害を排除 し、方向を正し、新時代の要請にかなった中日関係の構築に共に尽力 すべきだ。今年は中日平和友好条約締結45周年で、中国は日本とこれ を契機とし、条約の精神を共に振り返り、条約の義務を果たし、『互 いに協力パートナーとなり、互いに脅威とならない』重要な政治的共 通認識を堅持し、ハイレベル対話・意思疎通を続け、デジタル経済、 グリーン発展、産業チェーン・サプライチェーンの安定維持などの分 野の協力を深め、中日関係を正しい軌道に沿って改善、発展させるこ とを願っている」(註2)。中国側から「ハイレベル対話・意思疎通を 続け、デジタル経済、グリーン発展、産業チェーン・サプライチェー ンの安定維持などの分野の協力を深める」ことの呼びかけがなされて います。  上記の対外貿易法の登記要件撤廃の理由と同じく、経済活性化をし たいように見え、そのために中国側からも日本とのビジネス連繋を呼 び掛けているように見えます。これから、中国側から積極的に日本に ビジネスを呼び掛ける可能性もあるため、日中のビジネス状況は注視 したいところです。 (註1) 「従試点到修法:貿易便利化再提速」(全国人民代表大会ウェブサイト)〈http://www.npc.gov.cn/npc/kgfb/202302/5f41dcdf114c4148884901dfc4760261.shtml〉2023年2月2日更新、2023年2月6日閲覧。 (註2)「秦剛外交部長、日本の林芳正外相と電話会談」(中華人民共和国駐日本大使館ウェブサイト) 〈http://jp.china-embassy.gov.cn/jpn/zrdt_1/202302/t20230203_11019019.htm〉2023年2月3日更新、2023年2月6日閲覧。 【筆者紹介】  高橋孝治  環太平洋アジア交流協会 研究員/立教大学 アジア地域研究所 特任研究員  北京にある中国政法大学 博士課程修了(法学博士)。研究領域:中国法・  台湾法。研究の傍ら、中国ビジネスのコンサルティングや講演活動も行って  いる。法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。  台湾で「法律専家認証」(法律専門家認定)取得。『日中建協NEWS』にて  「理論と実務から見る中国法教室」を大好評連載中。  ご連絡は環太平洋アジア交流協会まで info@society-apa.com メールマガジンの配信をご希望される方は、下記の申込みフォーマットを「コピ ー&ペースト」して、horie@jcbh.orgまでメールにてご返信ください。 ≪メルマガ配信申込みフォーマット≫  企業名:  氏 名:  部 署:  役 職:  メールアドレス: ●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●  〒101-8986  東京都千代田区神田錦町1-9 東京天理ビル9階  一般財団法人日本建築センター内  日中建築住宅産業協議会
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高橋 孝治
2023年2月15日
In 海外リーガル Overseas Legal
2023年2月15日付の『人民日報』2面には「今年の中央一号文件は、セーフティネットの保持、振興の促進、強い保障を謳う:農村振興の全面推進の「マニュアル」(今年中央一号文件聚焦守底銭、促振興、強保障:全面推進郷村振興有了“操作手冊”)」という記事が掲載されました。 これによれば、今年の中国共産党中央第一号文件は、農村をテーマにしたものであり、強力な農業国家の建設を加速するという目標を置いているとしています。そして、同第一号文件は、農業国家とするためのマニュアルにもなっており、収益の維持、再生の促進などの内容が盛り込まれているという。いわゆる、農村の貧困の改善のために、農村を大規模に改革するというものです。 中国近代史的に見れば、「先富論」で沿岸部ばかりが発展していた中国で、やっと農村の改革が始まったというところになります。ところで、一般的に国家を産業で見ると、農業国家→工業国家→サービス産業国家と移行していくものですが、ここでは「強力な農業国家の建設を加速する」としています。中国沿岸部は、工業国家やサービス産業国家と言っても問題ありませんが「強力な農業国家」をも目標にしているようです。まだ、中国の格差問題を改善するためのリップサービスの可能性もありますが、少なくともこれから中国では農業が大きく進展し、農村の貧困が改善されるほどの経済効果が発生するようです。ここしばらくは中国のアグリビジネスなどチャンスが大きく到来するかもしれません。
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高橋 孝治
2023年1月29日
In 海外リーガル Overseas Legal
 中国の『人民法院報』(2023年1月18日付け)2面に、高嵐「理論的革新の『6つの必須堅持事項』を実行する(貫徹落実好理論創新的“六個必須堅持”)」という記事が載った。「6つの必須堅持事項」とは、2022年10月16日から22日に開催された中国共産党第20回全国代表大会の報告で出されたものである。  「6つの必須堅持事項」とは、①人民至上主義の堅持、②自信と自立の堅持、③誠実さと革新の堅持、④問題志向の堅持、⑤システムの概念の堅持、⑥世界について考え続けることの堅持とされている。ここで驚くことは、最近の中国政府や中国共産党が繰り返して発言し、重要な位置づけにあるものと思われる「法治の堅持」については述べていないことである。  しかし、「6つの必須堅持事項」は、法について全く述べていないわけではない。高嵐「理論的革新の『6つの必須堅持事項』を実行する」の指摘によれば、人民至上主義の堅持の中にそれが含まれるという。高嵐「理論的革新の『6つの必須堅持事項』を実行する」によれば、中国共産党は人民が造ったもので、人民に幸せを用意する存在であるという。さらに、人民の立場は我が党(中国共産党)の基本的政治立場であるとも述べている。これまでにも、中国では「人民」という言葉は、中国共産党の指導に従う者を意味するとされてきたが(註1)、2023年になってもその定義は変わらないということが再確認されたのである。そして、この人民至上主義をなすために人民法院は、習近平の法治思想を深く受入なければならないと述べている。  習近平の法治思想とはどのような思想をいうのであろうか。残念ながらこの点は明らかではない。しかし、中国ビジネス法を含めた法解釈に、定義が明らかではない「習近平の法治思想」が今後も大きくかかわってくることは間違いない。「習近平の法治思想」という言葉からすると、「習近平の一存」という意味で使われている可能性もなくはない(もっとも、個人の一存によることが「法治」と呼べるのかは疑義がある)。ところで、2023年1月10日から、中国は日本人に対するビザ発行の停止を宣言したが同月29日から再開するという朝令暮改的な政策が見られる。個人の一存に依るように見える法のあり方は、まさにこのようなすぐに改変されるようなことが今後も多く起こるということではなかろうか。 (註1)高橋孝治『中国社会の法社会学――「無秩序」の奥にある法則の探求』明石書店、2019年、68頁。
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高橋 孝治
2023年1月10日
In 海外リーガル Overseas Legal
 日本の『産経新聞』(2023年1月4日付)1面には「『民主』を装う強権国家」という記事が掲載された。「民主主義の形」という連載の一回ではあるが、事実上、中国批判の記事となっている。 この「『民主』を装う強権国家」という記事では、「習政権は近年、中国の政治は『民主主義』だと言い張っている」、「『民主は多様』であり、『独裁とは矛盾しない』とも言い切った」と習近平政権の民主主義の理解はおかしいと遠回しに述べている。 しかし、このような「中国でも民主主義体制が施行されている」という表現は、習近平が初めて述べたことではない。毛沢東も「中国は民主主義である」と述べていた(註1)。そして併せて中国共産党に味方する者には民主の方法を採り、敵対する者には独裁的方法を採るとも述べていた(註2)。これは一般的に社会主義国における政治理論で「敵・味方の理論」と呼ばれ、民主と独裁を相手によって使い分けることから「人民民主主義独裁」とも呼ばれている。  この意味では、中国は特に「『民主』を装っている」わけではない。そもそも、日本などと社会主義国における「民主」の定義づけが異なるのである。確かに、ルソーやモンテスキュー的な民主から見たら、中国など社会主義国の「人民民主主義独裁」は「民主」とは呼べないであろう。しかし、「民主主義の形」というシリーズ特集であれば、社会主義国における「民主」が日本人などが想像する「民主」と意味が異なるという点には言及してほしいものであるし、この点に触れなければ中国の正しい理解や批判は難しいものとなる。  まとめると、この「『民主』を装う強権国家」の記事は、民主主義を語るシリーズの一部でありながら、中国が言う「民主主義」とはその定義づけが異なることを見落とし、中国側の定義を再確認することなく「民主」を素材に中国を批判する記事であったと言えるであろう。日本でも中国に関する情報は多くあるが、中国側の定義や日本の差異などを併せて示す論はほとんど見ないと言ってもいい。中国ビジネスを行い、現地情報を得るならばこのような視点も持った上で中国を分析しなければならない。 <註> (1) 例えば、毛沢東は中国を「人民民主主義専制の国」と述べていた。毛沢東「関于正確処理人民内部矛盾的問題」『毛沢東文集(第7巻)』人民出版社、1999年、206~207頁。 (2) 毛沢東・前掲註(1)212頁。
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高橋 孝治
2022年5月22日
In 海外リーガル Overseas Legal
 中国では、『法治日報』(2022年5月10日付)という新聞の5面に「修改企業破産法 争取尽早提請審議」という記事が掲載されました。この記事にいわく、2022年内に「企業破産法」を全面改正すべく、改正案を議題として提出したとしています。  現在施行されている中国の「企業破産法」は、2007年6月1日に施行されました。しかし、施行から10年以上を経過して、企業の破産実務に伴って発生する問題にも対応が難しくなっていると指摘されていることが改正の理由とのことです。  まだ、どのような企業破産法になるのか、条文は見えてきませんが、同記事で報じられている限りでは、破産を認定する機関の連携、破産管財人制度の強化と自律、国境を越えた破産制度の構築が議論されているとされています。  「国境を越えた破産制度の構築」するという点は、中国に進出している企業以外も注目しておきたい点です。
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高橋 孝治
2021年11月09日
In 海外リーガル Overseas Legal
 中国で、労働者を解雇する場合にはいくら理屈が通っているように見えても、中国での司法実務では認められない場合があります。ここでは、実際に中国で解雇が問題となった裁判事例を見てみましょう。 【事例】原告Aは、被告B社の労働者であった。AはB社と期間の定めなき雇用契約(中国語原文では「無固定期限労働合同」)を締結していたが、あるときB社に警察が立ち入り、その際に勤務時間中であるにもかかわらず、Aが持ち場を離れて麻薬を吸引しているのが発見された。その次の日に警察は、Aに対して15日の拘留処分を科す旨の決定をした。もっとも、A自身は疾患を抱えておりそれゆえ実際には拘留には科されなかった。  しかし、B社は勤務中に麻薬の吸引をしていたことは重大な違法行為であり、厳しい処分をしなければならないと判断していた。結果として、B社は労働組合(中国語原文では「工会」)に意見を聞いた上で、自社の職員賞罰規定に基づき重大な規律違反行為があったとしてAとの雇用契約を解除するとAに通告した。 これに不満を持ったAは、労働仲裁を申し立て、その結果にも不満を持ち、B社に中国で雇用契約が解除された場合に支払わなければならない経済保証金が未払いであり、この支払いを求めて人民法院(裁判所)に提訴した。  結論としては、Aの要求は認められました。人民法院は、B社の職員賞罰規定に、「職員が麻薬を吸引した場合の取扱い」について規定はされておらず、この状況を「労働時間中の職場から離れ、その情状が極めて重い場合」の規定を用いて処理するのは、根拠に乏しいと判示したのです。中国は、アヘン戦争の反省から麻薬の吸引などについては極めて厳格に処罰される司法実務があります。そんな中、「労働時間中に持ち場から離れ、麻薬を吸引していた」という事実が「労働時間中の職場から離れ、その情状が極めて重い場合」に該当しないというのはかなり無理がある判断と言えそうです。  アヘン戦争から麻薬の吸引に対して厳格に処理する側面があるとはいえ、それ以前に中国はやはり社会主義国家であり、労働者の解雇にはかなりの制限があるということなのでしょう。中国で労働者を解雇する場合には、やはり一方的解雇ではなく、形式的にでも話し合い、労使双方の合意で退職するようにした方が後々トラブルが少ないと言えそうです。 判決番号:(2017)鄂01民終字6208号民事判決
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高橋 孝治
2021年8月13日
In 海外リーガル Overseas Legal
 中華人民共和国(以下「中国」といいます)では、法律があってないような運用がされることがあるとは、中国ビジネスを行っている多くの方が知っていることでしょう。では、現実には中国では法律はどのように運用されているのでしょうか。ここではこれを検討してみましょう。  なお、中国の裁判結果は「案例」と呼ばれ、日本の「判例」とは異なり、「その事案に対する判断結果」とされています。つまり、類似する複数の事件に対して過去の裁判結果は、事実上も影響を与えない、すなわち類似する複数の事件があったとしてそれぞれで全く異なる結論が出ていてもよいという制度を国家が正式に認めているのです。そのため、ここで見る事例は、あくまで「このように判断された例がある」程度のものであり、「類似する事件では必ずこのように判断される」というものではありません。  それでは、以下、製造物責任に関する中国での損害賠償裁判について見ていきます。 【事例】原告Aは祖母Bを含む親族一同でパーティを行い、その際に買ってきた爆竹を鳴らした。しかし、その爆竹が想定外の爆発を起こし、祖母Bの左目に異物が入ってしまった。結果としてBは左目を取り出すことになり、医療費も数万元かかった。  そこでAは、当該爆竹を販売していたスーパーマーケット甲と爆竹を生産していた乙社に対して、損害賠償を求めるべく人民法院(裁判所)に訴訟を提起した。  これに対しスーパーマーケット甲は「我々は、乙社から仕入れをして、販売していただけであり、その結果については関係なく、我々が損害賠償責任を負う必要はない」と抗弁した。さらに、乙社は「Aらがスーパーマーケット甲から当該爆竹を購入し、それを使い損ねたのであり、当社は損害賠償責任を負うものではない。Aらは既に成人しており、自己の行為に対しては自らの責任とする義務がある」と抗弁した。  この結論としては、スーパーマーケット甲のみがAらの損害を賠償する責任を負う、との判断がなされました。中国には不法行為責任法(中国語原文は「侵権責任法」。2021年1月1日廃止)という法律があり、その第43条は以下のように規定されています。「(第1項)製品の欠陥で損害を被った場合、被害者は、製品の生産者に賠償を請求でき、また製品の販売者に賠償を請求することもできる。(第2項)製品の欠陥が生産者に原因がある場合、販売者が賠償した後、生産者に求償を求める権利を有する。(第3項)販売者の過失により製品に欠陥が生じた場合、生産者が賠償した後、販売者に求償を求める権利を有する」。  人民法院は、不法行為責任法第43条により、Aらはスーパーマーケット甲と乙社のどちらにも損害賠償請求ができると述べました。しかし爆竹が保管されていたスーパーマーケット甲の倉庫が保管に適さない水準であったため、最終的な責任についてはスーパーマーケット甲が負い、乙社については明確な証拠がないため最終的な責任は負わないものとするとも述べたのです。  ここで、スーパーマーケット甲の倉庫が爆竹の欠陥の原因とはどういうことでしょう。保管方法が悪いと爆竹は想定外の爆発をするものなのでしょうか。保管していた倉庫が雨漏りがして、爆竹に火が点かなかったというなら分かりますが、倉庫の保管方法が原因で想定外の爆発を起こすということは通常はあり得ません。  中国の裁判では、裁判官が顔見知りのために論理から考えるとおかしい判決が出ることがありますが、これはその典型例と言えるでしょう。  なお、中国の不法行為責任法は2021年1月1日に廃止され、替わって民法典が施行されました。しかし、不法行為責任法第43条とほぼ同じ条文が民法典第1202条と第1203条に規定されており、基本的な規制内容は変わっていないので、似たようなことが今後中国の裁判で起こる可能性は否定できません。 判決番号:(2017)蘇08民終1134号 <執筆者紹介> 高橋孝治/環太平洋アジア交流協会研究員・立教大学アジア地域研究所特任研究員 中国政法大学博士課程修了(法学博士)。法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)、国会議員政策担当秘書有資格者。中国法に関する研究や執筆、講演の傍ら、複数の企業や団体にて中国法顧問を務める。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会、2015年)、『中国社会の法社会学』(明石書店、2019年)ほか多数。「月曜から夜ふかし」(2015年10月26日放送分)では中国商標法についてコメントした。「高橋孝治の中国法教室」を『時事速報(中華版)』(時事通信社)にて連載中。 環太平洋アジア交流協会・海外リーガルサポートでは、定期的に日本企業の皆さまに有用なアジアビジネス法に関するセミナーや個別のコンサルティングなども行っています。お気軽にお問合せください。 海外リーガル(完全版)は会員ページで上記のレポートを掲載しております。 https://www.society-apa.com/legal
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高橋 孝治
2021年6月26日
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 中国では2021年4月26日から全国人民代表大会常務委員会で「海南自由貿易港法」なる法律の2回目の審議が始まりました。2020年12月には、1回目の審議が行われ、その後、意見公募をした上で修正して作成された第2稿(全57条)が今回審議されています。  審議中であるため、今後条文の内容は変更になる可能性はありますが、海南島全域に海南自由貿易港ができ(第1稿第2条)、概ね貿易、投資および関連する金融、税関、海事、税務などについては独自の規制となる見込みで(第1稿第6条第2項)、生態の維持と環境保護が優先され、クリーンな発展、汚染防止を行うことも義務付けられています(第1稿第5条、第32条)。そして、税関の公共衛生安全、国境の生物安全、食品安全、生産品の品質の安全の強化も謳われています(第1稿第12条第2項)。これらの強化は最近の中国共産党の方針でもあるので、条文にも取り込まれるのは当然ではありますが、このような特定の分野での規制が強い状態での自由貿易港がどのようなものになるのか、また実際に公布される法律がどのようなものになるのか注視したいところです。 <執筆者紹介> 高橋孝治/環太平洋アジア交流協会研究員・立教大学アジア地域研究所特任研究員 中国政法大学博士課程修了(法学博士)。法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)、国会議員政策担当秘書有資格者。中国法に関する研究や執筆、講演の傍ら、複数の企業や団体にて中国法顧問を務める。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会、2015年)、『中国社会の法社会学』(明石書店、2019年)ほか多数。「月曜から夜ふかし」(2015年10月26日放送分)では中国商標法についてコメントした。「高橋孝治の中国法教室」を『時事速報(中華版)』(時事通信社)にて連載中。 環太平洋アジア交流協会・海外リーガルサポートでは、定期的に日本企業の皆さまに有用なアジアビジネス法に関するセミナーや個別のコンサルティングなども行っています。お気軽にお問合せください。 海外リーガル(完全版)は会員ページで上記のレポートを掲載しております。 https://www.society-apa.com/legal
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高橋 孝治
2021年5月26日
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 中国では、2020年12月26日に「長江保護法」という法律が成立・公布され(主席令第65号)、2021年3月1日から施行されました。長江保護法は、長江流域の生態環境保護およびそれらの修復、資源の効率よい利用の促進、生態の安全の保障、人と自然の調和と共生を目的として制定されています(第1条)。長江保護法の具体的規定については、流域の自治体が制定した管理や汚染に対する規則や規制、基準によるものとするとの規定ばかりで長江保護法のみでは、具体的な管理方法や汚染対策はほとんど規定されていないに等しくなっています。しかし、これから順次長江保護法に基づいた具体的な管理基準や汚染対策規則が制定されていくでしょう。  法律が制定されただけで環境問題が解決するわけではありません。しかし、かつては環境汚染大国であった中国がこのような法律を制定したことは大きなことと言えるでしょう。また、長江保護法制定にあたり、全国人民代表大会環境および資源保護委員会主任委員の高虎城氏は以下のように述べました。「長江は、全長6,300キロに達し、中国の水源の3分の1と水力資源の5分の3を占め、野生動植物も豊富であり、これを保護することは現代人の歴史的責任であり、子々孫々の代、民族の未来につながるものであるとして制定された。……現在の長江は既に『病んで』おり、洞庭湖、鄱陽湖は干上がり、一部の水流は断裂しており、一部の生態系は退化し、最もひどい部分では魚がいない状態になっている。これらの問題から長江保護法の制定は急務であり、長江流域に居住する者の切望でもあった」。これまで環境汚染が続いていた中国も環境問題を大きな関心を寄せていることが読み取れる言葉となっています。今後の中国の環境問題対策が注目を受けると共に、中国での環境ビジネスも大きく注目を受けることになるでしょう。 <執筆者紹介> 高橋孝治/環太平洋アジア交流協会研究員・立教大学アジア地域研究所特任研究員 中国政法大学博士課程修了(法学博士)。法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)、国会議員政策担当秘書有資格者。中国法に関する研究や執筆、講演の傍ら、複数の企業や団体にて中国法顧問を務める。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会、2015年)、『中国社会の法社会学』(明石書店、2019年)ほか多数。「月曜から夜ふかし」(2015年10月26日放送分)では中国商標法についてコメントした。「高橋孝治の中国法教室」を『時事速報(中華版)』(時事通信社)にて連載中。 環太平洋アジア交流協会・海外リーガルサポートでは、定期的に日本企業の皆さまに有用なアジアビジネス法に関するセミナーや個別のコンサルティングなども行っています。お気軽にお問合せください。 海外リーガル(完全版)は会員ページで上記のレポートを掲載しております。 https://www.society-apa.com/legal
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高橋 孝治
2021年5月17日
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当協会研究員の高橋孝治が、中国ビジネス法に関する論考を発表しました。 〇「社会主義法治文化建設の強化に関する意見」  中国共産党中央事務室と中華人民共和国(以下「中国」といいます)の国務院(日本の内閣に相当)は4月5日に共同して「社会主義法治文化建設の強化に関する意見(関于加強社会主義法治文化建設意見)」という通知を発出しました(原文全文は『人民日報』2021年4月6日付1面に掲載されています)。これによれば、習近平の法治思想などの徹底を宣言し、深く学習し、社会主義法治文化の建設を中国の特色ある社会主義法治体系の建設とする、などと述べています。 〇習近平の法治思想? 2018年3月11日に改正された中国憲法前文第7段落でも「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」という言葉が使われており、日本でも一部で大きく報道されましたが、習近平は独自の法治思想も持っているようです。習近平の法治思想については、中国政府は体系的にまとめてはいないようですが、中国の法学界は、中国共産党による全面的な法治国に関する指導の堅持や人民を中心とする、中国の特色ある社会主義法治の道の堅持などを内容としているとまとめています(註1)。(なお、習近平の法に対する考え方については、高橋孝治「習近平時代の中国法再考――中国式『法治』とは何か――」(『世界平和研究』(220号)世界平和教授アカデミー、2019年、79~88頁収録)を参照ください) 〇社会主義法治?社会主義市場経済? 習近平の法治思想にしろ、今回の通知にしろ、「社会主義法治」という言葉が頻繁に出てきます。では「社会主義法治」とは何なのかというと、中国政府は定義していないとしか答えることができません。そもそも、「法治」の考え方においては、なぜ「法律」を至上のルールなのかというと、法律は市民全員で選んだ議員が議論して作成したから、主権者たる国民の総意に基づいているからとされています。つまり、民主化していることが前提にあり、共産党による専制体制を肯定する「社会主義」思想とは相いれないものなのです。「社会主義市場経済」という用語も相反する用語をつなげたものと言われていますが、これと同じなのです。 〇中国市場はどうなる?  「社会主義法治」とは、「中国共産党の指導の下で法治を実行する」というものなのだろうと思われますが、それは、「党治」であり「法治」とは言い難いことは言うまでもありません。結局、日本とは大きく異なる考え方を持つ「社会主義法」を中国が使い続けることに変わりはないものと思われます。中国については、「法が法として機能していない」とか「無法地帯」と呼ぶ人もいますが、発想が異なるだけで一応の理論体系が存在します。その中国の法理論をよく知ることがやはり重要なのでしょう。結局、中国市場ではこれからもこれまでのような「法」の扱いから大きく変わることはなさそうです。本サイトでも中国の法理論について何度か言及してきました。引き続き、中国の「法」に対する姿勢は注視する必要があるでしょう。 (註1)「習近平法理思想」(法制網ウェブサイト)http://www.legaldaily.com.cn/zt/node_105730.html(更新日不明、2021年4月8日閲覧)。 <執筆者紹介> 高橋孝治/環太平洋アジア交流協会研究員・立教大学アジア地域研究所特任研究員 中国政法大学博士課程修了(法学博士)。法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)、国会議員政策担当秘書有資格者。中国法に関する研究や執筆、講演の傍ら、複数の企業や団体にて中国法顧問を務める。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会、2015年)、『中国社会の法社会学』(明石書店、2019年)ほか多数。「月曜から夜ふかし」(2015年10月26日放送分)では中国商標法についてコメントした。「高橋孝治の中国法教室」を『時事速報(中華版)』(時事通信社)にて連載中。 環太平洋アジア交流協会・海外リーガルサポートでは、定期的に日本企業の皆さまに有用なアジアビジネス法に関するセミナーや個別のコンサルティングなども行っています。お気軽にお問合せください。
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高橋 孝治

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