中国で、労働者を解雇する場合にはいくら理屈が通っているように見えても、中国での司法実務では認められない場合があります。ここでは、実際に中国で解雇が問題となった裁判事例を見てみましょう。
【事例】原告Aは、被告B社の労働者であった。AはB社と期間の定めなき雇用契約(中国語原文では「無固定期限労働合同」)を締結していたが、あるときB社に警察が立ち入り、その際に勤務時間中であるにもかかわらず、Aが持ち場を離れて麻薬を吸引しているのが発見された。その次の日に警察は、Aに対して15日の拘留処分を科す旨の決定をした。もっとも、A自身は疾患を抱えておりそれゆえ実際には拘留には科されなかった。 しかし、B社は勤務中に麻薬の吸引をしていたことは重大な違法行為であり、厳しい処分をしなければならないと判断していた。結果として、B社は労働組合(中国語原文では「工会」)に意見を聞いた上で、自社の職員賞罰規定に基づき重大な規律違反行為があったとしてAとの雇用契約を解除するとAに通告した。 これに不満を持ったAは、労働仲裁を申し立て、その結果にも不満を持ち、B社に中国で雇用契約が解除された場合に支払わなければならない経済保証金が未払いであり、この支払いを求めて人民法院(裁判所)に提訴した。
結論としては、Aの要求は認められました。人民法院は、B社の職員賞罰規定に、「職員が麻薬を吸引した場合の取扱い」について規定はされておらず、この状況を「労働時間中の職場から離れ、その情状が極めて重い場合」の規定を用いて処理するのは、根拠に乏しいと判示したのです。中国は、アヘン戦争の反省から麻薬の吸引などについては極めて厳格に処罰される司法実務があります。そんな中、「労働時間中に持ち場から離れ、麻薬を吸引していた」という事実が「労働時間中の職場から離れ、その情状が極めて重い場合」に該当しないというのはかなり無理がある判断と言えそうです。
アヘン戦争から麻薬の吸引に対して厳格に処理する側面があるとはいえ、それ以前に中国はやはり社会主義国家であり、労働者の解雇にはかなりの制限があるということなのでしょう。中国で労働者を解雇する場合には、やはり一方的解雇ではなく、形式的にでも話し合い、労使双方の合意で退職するようにした方が後々トラブルが少ないと言えそうです。
判決番号:(2017)鄂01民終字6208号民事判決
高橋研究員、記事の掲載ありがとうございます。判決番号にある「鄂」の記号は湖北省の通達。こんな判例もあるのか、とても参考になりました。
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