中国では、2020年12月26日に「長江保護法」という法律が成立・公布され(主席令第65号)、2021年3月1日から施行されました。長江保護法は、長江流域の生態環境保護およびそれらの修復、資源の効率よい利用の促進、生態の安全の保障、人と自然の調和と共生を目的として制定されています(第1条)。長江保護法の具体的規定については、流域の自治体が制定した管理や汚染に対する規則や規制、基準によるものとするとの規定ばかりで長江保護法のみでは、具体的な管理方法や汚染対策はほとんど規定されていないに等しくなっています。しかし、これから順次長江保護法に基づいた具体的な管理基準や汚染対策規則が制定されていくでしょう。
法律が制定されただけで環境問題が解決するわけではありません。しかし、かつては環境汚染大国であった中国がこのような法律を制定したことは大きなことと言えるでしょう。また、長江保護法制定にあたり、全国人民代表大会環境および資源保護委員会主任委員の高虎城氏は以下のように述べました。「長江は、全長6,300キロに達し、中国の水源の3分の1と水力資源の5分の3を占め、野生動植物も豊富であり、これを保護することは現代人の歴史的責任であり、子々孫々の代、民族の未来につながるものであるとして制定された。……現在の長江は既に『病んで』おり、洞庭湖、鄱陽湖は干上がり、一部の水流は断裂しており、一部の生態系は退化し、最もひどい部分では魚がいない状態になっている。これらの問題から長江保護法の制定は急務であり、長江流域に居住する者の切望でもあった」。これまで環境汚染が続いていた中国も環境問題を大きな関心を寄せていることが読み取れる言葉となっています。今後の中国の環境問題対策が注目を受けると共に、中国での環境ビジネスも大きく注目を受けることになるでしょう。
<執筆者紹介>
高橋孝治/環太平洋アジア交流協会研究員・立教大学アジア地域研究所特任研究員
中国政法大学博士課程修了(法学博士)。法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)、国会議員政策担当秘書有資格者。中国法に関する研究や執筆、講演の傍ら、複数の企業や団体にて中国法顧問を務める。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会、2015年)、『中国社会の法社会学』(明石書店、2019年)ほか多数。「月曜から夜ふかし」(2015年10月26日放送分)では中国商標法についてコメントした。「高橋孝治の中国法教室」を『時事速報(中華版)』(時事通信社)にて連載中。
環太平洋アジア交流協会・海外リーガルサポートでは、定期的に日本企業の皆さまに有用なアジアビジネス法に関するセミナーや個別のコンサルティングなども行っています。お気軽にお問合せください。
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