中国の『人民法院報』(2023年1月18日付け)2面に、高嵐「理論的革新の『6つの必須堅持事項』を実行する(貫徹落実好理論創新的“六個必須堅持”)」という記事が載った。「6つの必須堅持事項」とは、2022年10月16日から22日に開催された中国共産党第20回全国代表大会の報告で出されたものである。
「6つの必須堅持事項」とは、①人民至上主義の堅持、②自信と自立の堅持、③誠実さと革新の堅持、④問題志向の堅持、⑤システムの概念の堅持、⑥世界について考え続けることの堅持とされている。ここで驚くことは、最近の中国政府や中国共産党が繰り返して発言し、重要な位置づけにあるものと思われる「法治の堅持」については述べていないことである。
しかし、「6つの必須堅持事項」は、法について全く述べていないわけではない。高嵐「理論的革新の『6つの必須堅持事項』を実行する」の指摘によれば、人民至上主義の堅持の中にそれが含まれるという。高嵐「理論的革新の『6つの必須堅持事項』を実行する」によれば、中国共産党は人民が造ったもので、人民に幸せを用意する存在であるという。さらに、人民の立場は我が党(中国共産党)の基本的政治立場であるとも述べている。これまでにも、中国では「人民」という言葉は、中国共産党の指導に従う者を意味するとされてきたが(註1)、2023年になってもその定義は変わらないということが再確認されたのである。そして、この人民至上主義をなすために人民法院は、習近平の法治思想を深く受入なければならないと述べている。
習近平の法治思想とはどのような思想をいうのであろうか。残念ながらこの点は明らかではない。しかし、中国ビジネス法を含めた法解釈に、定義が明らかではない「習近平の法治思想」が今後も大きくかかわってくることは間違いない。「習近平の法治思想」という言葉からすると、「習近平の一存」という意味で使われている可能性もなくはない(もっとも、個人の一存によることが「法治」と呼べるのかは疑義がある)。ところで、2023年1月10日から、中国は日本人に対するビザ発行の停止を宣言したが同月29日から再開するという朝令暮改的な政策が見られる。個人の一存に依るように見える法のあり方は、まさにこのようなすぐに改変されるようなことが今後も多く起こるということではなかろうか。
(註1)高橋孝治『中国社会の法社会学――「無秩序」の奥にある法則の探求』明石書店、2019年、68頁。