フォーラム記事

高橋 孝治
2022年5月22日
In 海外リーガル Overseas Legal
 中国では、『法治日報』(2022年5月10日付)という新聞の5面に「修改企業破産法 争取尽早提請審議」という記事が掲載されました。この記事にいわく、2022年内に「企業破産法」を全面改正すべく、改正案を議題として提出したとしています。  現在施行されている中国の「企業破産法」は、2007年6月1日に施行されました。しかし、施行から10年以上を経過して、企業の破産実務に伴って発生する問題にも対応が難しくなっていると指摘されていることが改正の理由とのことです。  まだ、どのような企業破産法になるのか、条文は見えてきませんが、同記事で報じられている限りでは、破産を認定する機関の連携、破産管財人制度の強化と自律、国境を越えた破産制度の構築が議論されているとされています。  「国境を越えた破産制度の構築」するという点は、中国に進出している企業以外も注目しておきたい点です。
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高橋 孝治
2021年11月09日
In 海外リーガル Overseas Legal
 中国で、労働者を解雇する場合にはいくら理屈が通っているように見えても、中国での司法実務では認められない場合があります。ここでは、実際に中国で解雇が問題となった裁判事例を見てみましょう。 【事例】原告Aは、被告B社の労働者であった。AはB社と期間の定めなき雇用契約(中国語原文では「無固定期限労働合同」)を締結していたが、あるときB社に警察が立ち入り、その際に勤務時間中であるにもかかわらず、Aが持ち場を離れて麻薬を吸引しているのが発見された。その次の日に警察は、Aに対して15日の拘留処分を科す旨の決定をした。もっとも、A自身は疾患を抱えておりそれゆえ実際には拘留には科されなかった。  しかし、B社は勤務中に麻薬の吸引をしていたことは重大な違法行為であり、厳しい処分をしなければならないと判断していた。結果として、B社は労働組合(中国語原文では「工会」)に意見を聞いた上で、自社の職員賞罰規定に基づき重大な規律違反行為があったとしてAとの雇用契約を解除するとAに通告した。 これに不満を持ったAは、労働仲裁を申し立て、その結果にも不満を持ち、B社に中国で雇用契約が解除された場合に支払わなければならない経済保証金が未払いであり、この支払いを求めて人民法院(裁判所)に提訴した。  結論としては、Aの要求は認められました。人民法院は、B社の職員賞罰規定に、「職員が麻薬を吸引した場合の取扱い」について規定はされておらず、この状況を「労働時間中の職場から離れ、その情状が極めて重い場合」の規定を用いて処理するのは、根拠に乏しいと判示したのです。中国は、アヘン戦争の反省から麻薬の吸引などについては極めて厳格に処罰される司法実務があります。そんな中、「労働時間中に持ち場から離れ、麻薬を吸引していた」という事実が「労働時間中の職場から離れ、その情状が極めて重い場合」に該当しないというのはかなり無理がある判断と言えそうです。  アヘン戦争から麻薬の吸引に対して厳格に処理する側面があるとはいえ、それ以前に中国はやはり社会主義国家であり、労働者の解雇にはかなりの制限があるということなのでしょう。中国で労働者を解雇する場合には、やはり一方的解雇ではなく、形式的にでも話し合い、労使双方の合意で退職するようにした方が後々トラブルが少ないと言えそうです。 判決番号:(2017)鄂01民終字6208号民事判決
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高橋 孝治
2021年8月13日
In 海外リーガル Overseas Legal
 中華人民共和国(以下「中国」といいます)では、法律があってないような運用がされることがあるとは、中国ビジネスを行っている多くの方が知っていることでしょう。では、現実には中国では法律はどのように運用されているのでしょうか。ここではこれを検討してみましょう。  なお、中国の裁判結果は「案例」と呼ばれ、日本の「判例」とは異なり、「その事案に対する判断結果」とされています。つまり、類似する複数の事件に対して過去の裁判結果は、事実上も影響を与えない、すなわち類似する複数の事件があったとしてそれぞれで全く異なる結論が出ていてもよいという制度を国家が正式に認めているのです。そのため、ここで見る事例は、あくまで「このように判断された例がある」程度のものであり、「類似する事件では必ずこのように判断される」というものではありません。  それでは、以下、製造物責任に関する中国での損害賠償裁判について見ていきます。 【事例】原告Aは祖母Bを含む親族一同でパーティを行い、その際に買ってきた爆竹を鳴らした。しかし、その爆竹が想定外の爆発を起こし、祖母Bの左目に異物が入ってしまった。結果としてBは左目を取り出すことになり、医療費も数万元かかった。  そこでAは、当該爆竹を販売していたスーパーマーケット甲と爆竹を生産していた乙社に対して、損害賠償を求めるべく人民法院(裁判所)に訴訟を提起した。  これに対しスーパーマーケット甲は「我々は、乙社から仕入れをして、販売していただけであり、その結果については関係なく、我々が損害賠償責任を負う必要はない」と抗弁した。さらに、乙社は「Aらがスーパーマーケット甲から当該爆竹を購入し、それを使い損ねたのであり、当社は損害賠償責任を負うものではない。Aらは既に成人しており、自己の行為に対しては自らの責任とする義務がある」と抗弁した。  この結論としては、スーパーマーケット甲のみがAらの損害を賠償する責任を負う、との判断がなされました。中国には不法行為責任法(中国語原文は「侵権責任法」。2021年1月1日廃止)という法律があり、その第43条は以下のように規定されています。「(第1項)製品の欠陥で損害を被った場合、被害者は、製品の生産者に賠償を請求でき、また製品の販売者に賠償を請求することもできる。(第2項)製品の欠陥が生産者に原因がある場合、販売者が賠償した後、生産者に求償を求める権利を有する。(第3項)販売者の過失により製品に欠陥が生じた場合、生産者が賠償した後、販売者に求償を求める権利を有する」。  人民法院は、不法行為責任法第43条により、Aらはスーパーマーケット甲と乙社のどちらにも損害賠償請求ができると述べました。しかし爆竹が保管されていたスーパーマーケット甲の倉庫が保管に適さない水準であったため、最終的な責任についてはスーパーマーケット甲が負い、乙社については明確な証拠がないため最終的な責任は負わないものとするとも述べたのです。  ここで、スーパーマーケット甲の倉庫が爆竹の欠陥の原因とはどういうことでしょう。保管方法が悪いと爆竹は想定外の爆発をするものなのでしょうか。保管していた倉庫が雨漏りがして、爆竹に火が点かなかったというなら分かりますが、倉庫の保管方法が原因で想定外の爆発を起こすということは通常はあり得ません。  中国の裁判では、裁判官が顔見知りのために論理から考えるとおかしい判決が出ることがありますが、これはその典型例と言えるでしょう。  なお、中国の不法行為責任法は2021年1月1日に廃止され、替わって民法典が施行されました。しかし、不法行為責任法第43条とほぼ同じ条文が民法典第1202条と第1203条に規定されており、基本的な規制内容は変わっていないので、似たようなことが今後中国の裁判で起こる可能性は否定できません。 判決番号:(2017)蘇08民終1134号 <執筆者紹介> 高橋孝治/環太平洋アジア交流協会研究員・立教大学アジア地域研究所特任研究員 中国政法大学博士課程修了(法学博士)。法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)、国会議員政策担当秘書有資格者。中国法に関する研究や執筆、講演の傍ら、複数の企業や団体にて中国法顧問を務める。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会、2015年)、『中国社会の法社会学』(明石書店、2019年)ほか多数。「月曜から夜ふかし」(2015年10月26日放送分)では中国商標法についてコメントした。「高橋孝治の中国法教室」を『時事速報(中華版)』(時事通信社)にて連載中。 環太平洋アジア交流協会・海外リーガルサポートでは、定期的に日本企業の皆さまに有用なアジアビジネス法に関するセミナーや個別のコンサルティングなども行っています。お気軽にお問合せください。 海外リーガル(完全版)は会員ページで上記のレポートを掲載しております。 https://www.society-apa.com/legal
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高橋 孝治
2021年6月26日
In 海外リーガル Overseas Legal
 中国では2021年4月26日から全国人民代表大会常務委員会で「海南自由貿易港法」なる法律の2回目の審議が始まりました。2020年12月には、1回目の審議が行われ、その後、意見公募をした上で修正して作成された第2稿(全57条)が今回審議されています。  審議中であるため、今後条文の内容は変更になる可能性はありますが、海南島全域に海南自由貿易港ができ(第1稿第2条)、概ね貿易、投資および関連する金融、税関、海事、税務などについては独自の規制となる見込みで(第1稿第6条第2項)、生態の維持と環境保護が優先され、クリーンな発展、汚染防止を行うことも義務付けられています(第1稿第5条、第32条)。そして、税関の公共衛生安全、国境の生物安全、食品安全、生産品の品質の安全の強化も謳われています(第1稿第12条第2項)。これらの強化は最近の中国共産党の方針でもあるので、条文にも取り込まれるのは当然ではありますが、このような特定の分野での規制が強い状態での自由貿易港がどのようなものになるのか、また実際に公布される法律がどのようなものになるのか注視したいところです。 <執筆者紹介> 高橋孝治/環太平洋アジア交流協会研究員・立教大学アジア地域研究所特任研究員 中国政法大学博士課程修了(法学博士)。法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)、国会議員政策担当秘書有資格者。中国法に関する研究や執筆、講演の傍ら、複数の企業や団体にて中国法顧問を務める。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会、2015年)、『中国社会の法社会学』(明石書店、2019年)ほか多数。「月曜から夜ふかし」(2015年10月26日放送分)では中国商標法についてコメントした。「高橋孝治の中国法教室」を『時事速報(中華版)』(時事通信社)にて連載中。 環太平洋アジア交流協会・海外リーガルサポートでは、定期的に日本企業の皆さまに有用なアジアビジネス法に関するセミナーや個別のコンサルティングなども行っています。お気軽にお問合せください。 海外リーガル(完全版)は会員ページで上記のレポートを掲載しております。 https://www.society-apa.com/legal
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高橋 孝治
2021年5月26日
In 海外リーガル Overseas Legal
 中国では、2020年12月26日に「長江保護法」という法律が成立・公布され(主席令第65号)、2021年3月1日から施行されました。長江保護法は、長江流域の生態環境保護およびそれらの修復、資源の効率よい利用の促進、生態の安全の保障、人と自然の調和と共生を目的として制定されています(第1条)。長江保護法の具体的規定については、流域の自治体が制定した管理や汚染に対する規則や規制、基準によるものとするとの規定ばかりで長江保護法のみでは、具体的な管理方法や汚染対策はほとんど規定されていないに等しくなっています。しかし、これから順次長江保護法に基づいた具体的な管理基準や汚染対策規則が制定されていくでしょう。  法律が制定されただけで環境問題が解決するわけではありません。しかし、かつては環境汚染大国であった中国がこのような法律を制定したことは大きなことと言えるでしょう。また、長江保護法制定にあたり、全国人民代表大会環境および資源保護委員会主任委員の高虎城氏は以下のように述べました。「長江は、全長6,300キロに達し、中国の水源の3分の1と水力資源の5分の3を占め、野生動植物も豊富であり、これを保護することは現代人の歴史的責任であり、子々孫々の代、民族の未来につながるものであるとして制定された。……現在の長江は既に『病んで』おり、洞庭湖、鄱陽湖は干上がり、一部の水流は断裂しており、一部の生態系は退化し、最もひどい部分では魚がいない状態になっている。これらの問題から長江保護法の制定は急務であり、長江流域に居住する者の切望でもあった」。これまで環境汚染が続いていた中国も環境問題を大きな関心を寄せていることが読み取れる言葉となっています。今後の中国の環境問題対策が注目を受けると共に、中国での環境ビジネスも大きく注目を受けることになるでしょう。 <執筆者紹介> 高橋孝治/環太平洋アジア交流協会研究員・立教大学アジア地域研究所特任研究員 中国政法大学博士課程修了(法学博士)。法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)、国会議員政策担当秘書有資格者。中国法に関する研究や執筆、講演の傍ら、複数の企業や団体にて中国法顧問を務める。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会、2015年)、『中国社会の法社会学』(明石書店、2019年)ほか多数。「月曜から夜ふかし」(2015年10月26日放送分)では中国商標法についてコメントした。「高橋孝治の中国法教室」を『時事速報(中華版)』(時事通信社)にて連載中。 環太平洋アジア交流協会・海外リーガルサポートでは、定期的に日本企業の皆さまに有用なアジアビジネス法に関するセミナーや個別のコンサルティングなども行っています。お気軽にお問合せください。 海外リーガル(完全版)は会員ページで上記のレポートを掲載しております。 https://www.society-apa.com/legal
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高橋 孝治
2021年5月17日
In 海外リーガル Overseas Legal
当協会研究員の高橋孝治が、中国ビジネス法に関する論考を発表しました。 〇「社会主義法治文化建設の強化に関する意見」  中国共産党中央事務室と中華人民共和国(以下「中国」といいます)の国務院(日本の内閣に相当)は4月5日に共同して「社会主義法治文化建設の強化に関する意見(関于加強社会主義法治文化建設意見)」という通知を発出しました(原文全文は『人民日報』2021年4月6日付1面に掲載されています)。これによれば、習近平の法治思想などの徹底を宣言し、深く学習し、社会主義法治文化の建設を中国の特色ある社会主義法治体系の建設とする、などと述べています。 〇習近平の法治思想? 2018年3月11日に改正された中国憲法前文第7段落でも「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」という言葉が使われており、日本でも一部で大きく報道されましたが、習近平は独自の法治思想も持っているようです。習近平の法治思想については、中国政府は体系的にまとめてはいないようですが、中国の法学界は、中国共産党による全面的な法治国に関する指導の堅持や人民を中心とする、中国の特色ある社会主義法治の道の堅持などを内容としているとまとめています(註1)。(なお、習近平の法に対する考え方については、高橋孝治「習近平時代の中国法再考――中国式『法治』とは何か――」(『世界平和研究』(220号)世界平和教授アカデミー、2019年、79~88頁収録)を参照ください) 〇社会主義法治?社会主義市場経済? 習近平の法治思想にしろ、今回の通知にしろ、「社会主義法治」という言葉が頻繁に出てきます。では「社会主義法治」とは何なのかというと、中国政府は定義していないとしか答えることができません。そもそも、「法治」の考え方においては、なぜ「法律」を至上のルールなのかというと、法律は市民全員で選んだ議員が議論して作成したから、主権者たる国民の総意に基づいているからとされています。つまり、民主化していることが前提にあり、共産党による専制体制を肯定する「社会主義」思想とは相いれないものなのです。「社会主義市場経済」という用語も相反する用語をつなげたものと言われていますが、これと同じなのです。 〇中国市場はどうなる?  「社会主義法治」とは、「中国共産党の指導の下で法治を実行する」というものなのだろうと思われますが、それは、「党治」であり「法治」とは言い難いことは言うまでもありません。結局、日本とは大きく異なる考え方を持つ「社会主義法」を中国が使い続けることに変わりはないものと思われます。中国については、「法が法として機能していない」とか「無法地帯」と呼ぶ人もいますが、発想が異なるだけで一応の理論体系が存在します。その中国の法理論をよく知ることがやはり重要なのでしょう。結局、中国市場ではこれからもこれまでのような「法」の扱いから大きく変わることはなさそうです。本サイトでも中国の法理論について何度か言及してきました。引き続き、中国の「法」に対する姿勢は注視する必要があるでしょう。 (註1)「習近平法理思想」(法制網ウェブサイト)http://www.legaldaily.com.cn/zt/node_105730.html(更新日不明、2021年4月8日閲覧)。 <執筆者紹介> 高橋孝治/環太平洋アジア交流協会研究員・立教大学アジア地域研究所特任研究員 中国政法大学博士課程修了(法学博士)。法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)、国会議員政策担当秘書有資格者。中国法に関する研究や執筆、講演の傍ら、複数の企業や団体にて中国法顧問を務める。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会、2015年)、『中国社会の法社会学』(明石書店、2019年)ほか多数。「月曜から夜ふかし」(2015年10月26日放送分)では中国商標法についてコメントした。「高橋孝治の中国法教室」を『時事速報(中華版)』(時事通信社)にて連載中。 環太平洋アジア交流協会・海外リーガルサポートでは、定期的に日本企業の皆さまに有用なアジアビジネス法に関するセミナーや個別のコンサルティングなども行っています。お気軽にお問合せください。
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高橋 孝治

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