アジアは、1997-98年のアジア通貨経済危機、2008年の世界金融危機という2つの危機で大きな影響を受けた。アジア通貨危機はインドネシアの経済成長率はマイナス15%など韓国やASEAN主要国がマイナス成長となり多くの企業が破綻し、失業者が激増した。2008年の世界金融危機でも不況に落ち込んだ。2つの危機はアジアに変化をもたらした。アジア通貨経済危機ではASEAN+3(日中韓)首脳会議が初めて開かれ、RCEPにつながるアジアの地域協力と経済統合の道を拓いた。世界金融危機は欧米が経済危機に沈む中大規模な財政支出を行った中国が世界経済の回復をけん引した。中国は2010年にはGDPで世界2位となり、自国の経済運営システムに自信を深めた中国は、その後一帯一路構想を打ち出し、海洋進出を積極化させるなど対外攻勢を強め、現在の米中新冷戦の要因となった。
現在のコロナ危機は何を変え、何をもたらすのだろうか。コロナ危機は米中貿易戦争が続く中で発生しており、ダブルショックだった。先行きは不透明であるが、いくつかのポイントをあげてみよう。①米中対立とコロナ禍で自動車部品や医療品の供給不足が起きたため、サプライチェーンは特定国への過度の依存を避け、効率性や低コストだけでなく安全保障を考慮した再編が行われる。②中国経済は順調に回復しており、米中逆転も早まるという予測がでている。デカップリングが進んでいるが、途上国への中国の経済的影響力は強まり、調整中の一帯一路も質の重視などの変化はあるが、継続するのではないか。③バイデン政権は厳しい対中姿勢であり、中国に対する追加関税、輸出管理、投資規制を継続している。米国は米中は2つの大国の競争であるという認識である。経済的相互依存の中でデカップリングが一部で進み、技術覇権をめぐる競争や安全保障面での対立、イデオロギー面での対立が進むという新しい冷戦が長期間続くと思われる。④米国だけでなく中国も輸出管理法などの経済安全保障上の対抗措置をとっている。米中の経済安全保障をめぐる貿易管理、投資管理の中でアジア各国は規制や制裁の対象にならないために厳しいリスク管理が求められる。⑤コロナ前から進んでいたデジタル化とそれによる経済社会の変化(DX)はコロナ禍で加速した。アジア各国は日本よりもDXが進みつつあり、ユニコーンが生まれ、行政のデジタル化が進み、カンボジアのようにデジタル通貨が生まれた国もある。コロナ後はデジタル化がさらに加速するだろう。これらは仮説であり、将来を展望するには現状分析と調査研究が必要であることを付記する。
私のようなアナログ人間がデジタル化を遅らせているのかと思います。
ありがとうございます。携帯電話の普及率が日本より上と聞いてびっくりですが、先生がおっしゃるのがおかしいです。
ASEANは進んでいます。日本はデジタル庁の設立を進めていますが、シンガポールとタイは2016年に設立しました。カンボジアはデジタル通貨「パコン」の運用を始めました。タイ、シンガポール、ベトナム、フィリピン、マレーシアの携帯電話普及率は日本より上です。クラブ(マレーシア)は配車アプリから決済、物流に参入し、ミャンマー、タイ、ベトナム、インドネシアに事業を拡大しています。ほかにも多くのスタートアップ企業がASEANで生まれています。Making Indonesia 4.0などのデジタル成長戦略を2014年以降ASEAN各国は実施しています。驚くべきスピードでASEAN各国は変わっています。
中国はともかく、アジア各国はDX(デジタルトランスフォーム)が日本より進みつつあるというのは、意外です。具体的な国・地域はどこでしょうか?