米国は19世紀中は高関税国だった。高関税政策のバックボーンとなったのが、アメリカン・システムという経済政策である。アメリカン・システムは初代財務長官のアレキサンダー・ハミルトンが提唱した自由貿易のイギリス・システムに対抗する政策であり、高関税により国内製造業を保護育成し、関税収入を増加させ国内のインフラ整備や市場統合を進めるものである。トランプ関税は高関税により米国の製造業を復活させ、関税収入を増加させることを目的にしており、アメリカン・システムの現代版である。19世紀ドイツは工業化で先行する英国を追いかけて工業化に成功した。ドイツの戦略はリストの「幼稚産業保護論」を政策思想としていた。リストの「幼稚産業保護論」のモデルはアメリカン・システムである。トランプ氏は若き日にアメリカン・システムのファンだと語っているのである(篠田英朗)。
19世紀の開発途上国米国で成功したアメリカン・システムが世界の最先進国となった現代の米国で成功するかどうかは大きな疑問である。関税収入はすでに大幅に増加しており、主要な財政収入になることは間違いない。しかし、製造業の復権は難しいだろう。関税が安定財源になると撤廃が難しくなり、政権が変わっても高関税が続く可能性が高い。トランプ関税の長期化をビジネス計画の前提にすべきである。
参考:篠田英朗「地政学理論で読む多極化する世界」かや書房、2025年。
かつてのFRB議長、グリーンスパンが「自由貿易はグロスサム・ゲームであり、世界経済が拡大する」と語っていたと記憶する。だとすれば、高関税政策は市場の縮小であり、世界経済の収縮につながる。すでにIMF、OECDは経済成長率の見通しを下げているのは、その証左であろう。
それに対して説明できないのは日米の主要株式指標の最高値更新である。ある程度、織りこんでその先を追いかけているからなのか。