フォーラム記事

石川 幸一
2021年12月31日
In 世界経済 World Economy
「中国のような国にルールを書かせない」これはオバマ大統領がTPPについての発言である。中国をけん制する戦略的意図を持っていたTPPから米国が離脱し中国が加入を申請した。中国はバイデン政権がTPPに復帰する意思がないことを見定め、台湾よりも早く加入申請を行った。中国の加入にはいくつかの高いハードルがある。最も高いのは政府が国有企業を優遇することを禁止する「国有企業についてのルール」だ。TPPでは例外が認められている。へトナムやマレーシアは国有企業のルールの例外が認められている。中国も例外を求めるであろう。新規加入は加盟国の全会一致の承認が必要だ。そのために中国は交渉で加盟国に対しアメ(中国市場の魅力など)とムチ(圧力)を使う可能性がある。国有企業のルールは自由な市場、公平な競争を謳うTPPの根幹的なルールであり、日本をはじめ加盟国は妥協をすべきではない。
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石川 幸一
2021年6月16日
In 国際情勢と外交 International Affairs
自由で開かれたインド太平洋構想(FOIP)が注目を浴びている。日米豪印の4か国によるクアッド(QUAD)に加え、仏、独、オランダなどがインド太平洋戦略を発表し、仏独英はインド太平洋に艦船を派遣する。ASEANも独自のインド太平洋構想(AOIP)を発表した。バイデン政権の米国はインド太平洋を中国との「競争」の舞台と位置づけ、トランプ政権の厳しい対中外交姿勢を継続している。  インド太平洋構想は日本発の壮大な外交戦略であり、そのルーツは2007年8月のインド国会における安倍総理の演説「二つの海の交わり」である。「太平洋とインド洋が自由の海、繁栄の海としてダイナミックな結合をもたらし、従来の地理的境界を突き破る拡大アジアが明確な形を現わしている。これを広々と開き、豊かに育てていく力と責任が日本とインドの両国にある」「日本とインドが結び付くことにより、拡大アジアは太平洋全域にまで及ぶ広大なネットワークにまで成長する」という趣旨の演説でインド国会で絶賛された。演説はインドの偉大なヒンドゥ―教指導者ヴィヴェーカーナンダの「異なる場所から流れてきた異なる水流はすべて海で交わる(The different streams, having their sources in different places, all mingle their water in the sea.)」という言葉で始まっている。インドには「異なった河流の水の合する地点は神聖である」という伝承があるという(鈴木美勝「日本の戦略外交」ちくま新書、2017年)。  日本のFOIPは2016年の第6回アフリカ開発会議の安倍総理基調演説で発表された。「太平洋とインド洋、アジアとアフリカという2つの海、2つの大陸の結合が世界に安定と繁栄をもたらすとして、力と威圧と無縁で、自由と法の支配、市場経済を重んじる場として豊かにする責任を日本が負い、アジアからアフリカに至る一帯を成長と繁栄の大動脈にする」という壮大な国際戦略構想である。このFOIPがトランプ政権に採用され、豪州やインドもインド太平洋戦略を相次いで発表し、欧州諸国も参加しつつある。今やアジア外交の「一丁目一番地」に位置するインド太平洋構想であるが、そのルーツにはインドで生まれた深い思想的な意味が背景にあることを想起すべきであろう。
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石川 幸一
2021年5月23日
In 世界経済 World Economy
アジアは、1997-98年のアジア通貨経済危機、2008年の世界金融危機という2つの危機で大きな影響を受けた。アジア通貨危機はインドネシアの経済成長率はマイナス15%など韓国やASEAN主要国がマイナス成長となり多くの企業が破綻し、失業者が激増した。2008年の世界金融危機でも不況に落ち込んだ。2つの危機はアジアに変化をもたらした。アジア通貨経済危機ではASEAN+3(日中韓)首脳会議が初めて開かれ、RCEPにつながるアジアの地域協力と経済統合の道を拓いた。世界金融危機は欧米が経済危機に沈む中大規模な財政支出を行った中国が世界経済の回復をけん引した。中国は2010年にはGDPで世界2位となり、自国の経済運営システムに自信を深めた中国は、その後一帯一路構想を打ち出し、海洋進出を積極化させるなど対外攻勢を強め、現在の米中新冷戦の要因となった。  現在のコロナ危機は何を変え、何をもたらすのだろうか。コロナ危機は米中貿易戦争が続く中で発生しており、ダブルショックだった。先行きは不透明であるが、いくつかのポイントをあげてみよう。①米中対立とコロナ禍で自動車部品や医療品の供給不足が起きたため、サプライチェーンは特定国への過度の依存を避け、効率性や低コストだけでなく安全保障を考慮した再編が行われる。②中国経済は順調に回復しており、米中逆転も早まるという予測がでている。デカップリングが進んでいるが、途上国への中国の経済的影響力は強まり、調整中の一帯一路も質の重視などの変化はあるが、継続するのではないか。③バイデン政権は厳しい対中姿勢であり、中国に対する追加関税、輸出管理、投資規制を継続している。米国は米中は2つの大国の競争であるという認識である。経済的相互依存の中でデカップリングが一部で進み、技術覇権をめぐる競争や安全保障面での対立、イデオロギー面での対立が進むという新しい冷戦が長期間続くと思われる。④米国だけでなく中国も輸出管理法などの経済安全保障上の対抗措置をとっている。米中の経済安全保障をめぐる貿易管理、投資管理の中でアジア各国は規制や制裁の対象にならないために厳しいリスク管理が求められる。⑤コロナ前から進んでいたデジタル化とそれによる経済社会の変化(DX)はコロナ禍で加速した。アジア各国は日本よりもDXが進みつつあり、ユニコーンが生まれ、行政のデジタル化が進み、カンボジアのようにデジタル通貨が生まれた国もある。コロナ後はデジタル化がさらに加速するだろう。これらは仮説であり、将来を展望するには現状分析と調査研究が必要であることを付記する。
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石川 幸一
2021年5月23日
In コロナウィルス COVID-19
欧米に比べると日本のコロナ感染者、死者はけた違いに少ない。アジアではどうだろうか。 5月11日時点の日本の感染者は71万人、死者は1万2152人だ。アジアではインドが感染爆発を起こし、インドネシアとフィリピンが多いが、その他の国は少ない。少ない順でみると、ラオス感染者1782人、死者2人(以下同じ)、ニュージーランド2668人、26人、台湾3862人、17人、ベトナム5119人、42人、カンボジア2万4645人、167人、オーストラリア3万5人、910人となっている。 人口100万人当たりの死者は日本は96人だが、ラオスは0.3人、ベトナムは0.4人、台湾は0.9人、ニュージーランド5人などである。オーストラリアは35人と若干多いが日本よりははるかに少ない。このところ感染者が増えているタイは11人だ。アジアで感染者や死者が少ない要因には、ファクターX説やすでに免疫があるといった説、人種説があったが、ニュージーランドやオーストラリアという白人が多い国でも感染者、死者が少ないこと、アジア人の国でも感染者や死者が多い国があることからこれらの説は説得力を失っている。厳しい社会管理を行っている独裁国家が感染を管理しているのは確かだが、台湾、ニュージーランドなど民主主義国も感染を制御している。  感染の制御、死者の抑制に成功している国は、結局、厳しい入国管理を早期に取り入れ(現在も継続)、国内では厳しいロックダウンを行なった点が共通している。日本はこの2つの対策は極めて緩やかであった。ベトナムの2020年の経済成長率2.9%は世界主要国で最も高い。感染を抑え込んだ国が経済回復も早く、中国も同様である。米国や欧州はワクチン接種が進んでから、感染者数は顕著に減少し、経済活動も再開しつつあり、GDP成長率も高まりつつある。日本はアジアの医療先進国としてワクチンを製造しアジア諸国をはじめ貧しい国に供給すべき立場だったが、中国がワクチン外交によりその役割を果たしている。国内のワクチン接種を加速化し、経済活動(とくに飲食,観光)を全面再開し、大学などでの対面授業なども再開することが喫緊の課題だ。日本のワクチン開発費は米国の100分の1以下といわれる。コロナ感染は数年間続く可能性がある。健康の安全保障のためにも国産ワクチンの開発を急ぐべきだ。
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石川 幸一
2021年4月29日
In 世界経済 World Economy
 世界経済の政治的トリレンマ説とは、ハイパー・グローバリゼーション、民主主義、国民国家の3つを同時に維持することはできず、2つを選ばなければならないという世界的な経済学者ダニ・ロドリックの説である。近年の反グローバル化などの動きを説明するためにトリレンマ説が援用されることが増えている。英国のEU脱退は民主主義と国民国家の選択と言えるし、中国はハイパー・グローバリゼーション(疑問があるが)と国民国家を選択しているといえよう。ロドリックは、EUは民主主義を維持するのであれば、政治的統合に乗り出す(国民国家の断念)か経済統合を後退させねばならないと主張している。国民国家は不可欠であり、その役割は増大している。民主主義の維持は言うまでもなく、不可欠である。そうなると断念すべきはハイパー・グローバリゼーションとなる。  ロドリックはハイパー・グローバリゼーションに反対しているが、グローバリゼーションには反対していない。たとえば、WTOには反対しているがGATTには賛成している。この意見には異論があるが、行き過ぎたグローバル化ではなく、「賢明なグローバル化」が望ましいことは賛成が多いだろう。問題は賢明なグローバル化とは何かである。それは、対象分野、国の置かれた状況や時代によっても違うだろうし、グローバル化の進め方(スピードや方法)にもよる。アジア通貨経済危機、世界金融危機は金融の行き過ぎた金融グローバル化(自由化)が大きな要因となっていた。  賢明なグローバル化の観点で注目すべきは、経済の安全保障である。機微や新興技術技術の自由な移動は自国の安全保障に大きな問題を生じさせる恐れが大きくなっている。民生用の多くは新興技術は軍事に転用できる軍民両用技術だからだ。
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石川 幸一
その他