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フォーラム記事

石川 幸一
2025年4月08日
In 世界経済 World Economy
American Enterprises Instituteのエコノミストが相互関税の計算方法の間違いを指摘する論文を発表した。同論文によると、正しい相互関税はベトナムが12.2%、日本10%、EU10%など大幅に低くなる。 他の国はラオス12.7%、中国10%、タイ10%、インドネシア10%、EU10%、韓国10%などである。 貿易代表部(USTR)の発表した計算式は粗雑であり、根拠がないと厳しく批判されたが、大きな間違いがあるとするとトランプ政権の信頼度も低くなるだろう。専門家による検証を強く望む。
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石川 幸一
2025年4月08日
In 世界経済 World Economy
トランプ大統領が導入した追加関税トランプ関税と呼ばれているが、対中関税とその他の国に対する関税は性格が違うことをみておくべきである。貿易赤字の削減という点では共通しているが、対中関税は中国との競争戦略に基づており国家安全保障の要素が強いのである。中国以外の国に対する関税は状況(相手国の関税削減や米国からの輸入増加など、あるいは米国内のインフレ進行とトランプ支持率の低下)により削減や撤廃の可能性があるが、中国に対しては多少の削減はあっても大幅削減や撤廃はないであろう。中国の長期的な強国化戦略に対抗する「競争戦略」に基づいているからである。相互関税など追加関税の性格と狙いを冷静に判断して対応すべきである。ASEANに対する関税は削減の可能性があるが、中国に対する関税は高いレベルが続く可能性が強いと認識する必要がある。
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石川 幸一
2025年4月08日
In 世界経済 World Economy
トランプの相互関税によりチャイナ+1の投資先としてのASEANに見直しの動きがでていると報じられている。たしかにベトナム46%、タイ36%など高い相互関税が課されるのは予想を超えた事態であり、投資先として見直すのは当然であろう。しかし、中国に対する関税はトランプ1.0で最大25%が課税され、バイデン政権を経て今でも維持されている。25年2月と3月には合計20%の追加関税が課された。中国への相互関税34%と合計するとトランプ2.0での中国への追加関税は54%になる。トランプ1.0の25%関税は維持されており、合計すると中国に対しては最大79%の関税が課されることになる。  ベトナムには46%だから中国との関税率の差は33%、36%のタイとは43%、32%のインドネシアとの差は47%となる。高い相互関税を課されても相対的にはASEANは中国よりも米国への輸出では有利なことを見るべきであろう。中国は米国への報復関税34%をかけると発表した。ASEAN諸国は報復関税をかけるとは考えられず、高関税品目の関税引き下げや非関税障壁の見直しなどディールを行うだろう。見通しは判らないが、相互関税の引き下げの可能性は皆無ではない。中国に対しては相互関税がさらに引き上げられなど厳しい措置がとられるかもしれない。そうした点でもASEANのほうが有利である。企業の冷静な対応が求められる。
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石川 幸一
2025年4月08日
In 国際情勢と外交 International Affairs
相互関税の発表などトランプ関税が立て続けに発表され、世界で株価が暴落するなど混乱が拡大している。メディアでは貿易戦争が激化し、熱い戦争になるかもしれないという説明も聞かれる。1920年代30年代は世界大恐慌で株価が暴落し大不況となり、世界主要国は関税を引き上げ英連邦などブロック内でのみ貿易を行うブロック化が進み、第2次世界大戦の原因の一つとなった。  しかし、トランプ関税では報復関税により貿易戦争は一部で起きつつあるが、熱い戦争が起きることはありえない。中国は報復関税を発動するが米国に対してのみである。EUやカナダなども報復措置は米国のみを対象としている。1930年代は全世界を対象とし高関税をかけたが今回は米国のみである。また、報復関税をかけない国が圧倒的に多い。  そもそも世界で圧倒的な軍事力を持ち、核兵器を持つ米国と戦争をする国があるとは考えられない。危機を煽るのではなく、冷静の分析と報道を望みたい。
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石川 幸一
2025年4月03日
In 世界経済 World Economy
日本の新聞やテレビでは中国への追加関税は20%としか報じていない。しかし、トランプ1.0で導入された最大25%の対中制裁関税は撤廃されていない。従って、正確には対中追加関税は45%になる。米国の対中平均関税は42.1%である。4月2日に発表された相互関税は中国については34%である。従って、対中追加関税は4月9日から79%となる。トランプが選挙期間中に対中追加関税60%と発言していたが、これを超えるレベルになってしまう。貿易ができないほど高い関税は禁止的な関税といわれるが、79%は禁止的な高関税に近いだろう。
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石川 幸一
2025年4月03日
In 世界経済 World Economy
トランプ大統領が4月2日に相互関税を発表した。日本では日本(24%)や中国(34%)について報じられているので他の国への関税率を含めアジアへの関税について下記にまとめる。 北東アジア:日本24%、中国34%、韓国25%、台湾32% ASEAN: ブルネイ24%、インドネシア32%、マレーシア24%、フィリピン17%、シンガポール10%、タイ36%、カンボジア49%、ラオス48%、ミャンマー44%、ベトナム46% 南アジア:インド26%、バングラデシュ37%、パキスタン29%、スリランカ44% オセアニア:豪州10%、ニュージーランド10% 全ての国にベースライン関税10% 内容は極めて厳しい。カンボジアやラオス、大地震の被害を受けたミャンマーなど貧困国に40%を超える関税を課している。また、対米貿易赤字国であり関税はないに等しいシンガポールにも10%(ベースライン関税)が課されている。詳細な分析はこれからだが、アジアは米国市場に依存しており、大きな経済的影響は確実である。超大国の傲慢というしかなく、国際ルールや相互依存を無視した米国の信頼の失墜は確実だ。
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石川 幸一
2025年3月29日
In 国際情勢と外交 International Affairs
「トランプの4年のために工場を作れない」。トランプ関税に直面した経営者の言である。トランプ政治は4年で終わるという希望に基づくコメントである。しかし、トランプ政治は4年で終わるかどうか分からない。トランプ3.0そしてトランプ4.0まで予想する専門家がいる。米国通商政策の専門家である田中雄作氏は「ヴァンス副大統領は確たる理論的・思想的背景を持って米国第一主義や経済ナショナリズム、対中強硬政策を支持しており、ポストトランプの有力候補になる可能性が十分にある。29年1月にヴァンス大統領が誕生すれば、トランプ主義者として保護貿易政策、対中強硬策、国内製造業重視政策、移民制限政策を実施していく」と予想している(1)。  トランプ主義が続くのは、米国の社会と政治の構造が根本的に変わってしまったからである。米国政治と思想の第一人者である会田弘継教授はトランプ主義が続く3つの要因を指摘している(2)。まず、①格差が絶望的にまで広がり、民主党はエリートが支持する政党になり、さびれた地域に住む貧しい人々は共和党を支持するようになったことである。金融業界と癒着しリーマンショックで住宅を失った中間層の救済を怠ったオバマ政権下で上位10%が富の73%を所有し下位50%は1%しか所有せず、貧しい白人中年層の絶望死が急増するという超格差社会に米国はなってしまった。会田教授は、オバマが中間階層を崩壊させ、白人労働者階級を無視したことによりトランプ登場の露払いをしたと喝破している。  次に、②福音派とよばれる熱心なプロテスタントの支持である。米国は宗教が重要な国であり、世論調査では人生で宗教は非常に重要という回答が5割を超える。福音派は妊娠中絶、LGBTQに反対し、連邦政府による州政府や個人生活への介入に反対する。福音派は人口の25%を占め、大きな政治勢力である。  そして、③ポピュリズム・ナショナリズムという強固な思想的基盤を持つ。その特徴は、中央に対する地方の反感、エリートに対する反感と懐疑、排外主義・土着主義、グローバリズム反対、経済ナショナリズムアメリカファーストなどである。それらは、自由貿易否定、米国製造業の回復、移民反対と国境管理、国際機関からの脱退、国際ルールの無視などの具体政策となる。これらのトランプ主義を支持するのは、エリートに支配された政治に疎外されていると感じている貧しい中産階層である。  ヴァンスの後任はトランプジュニアとなる可能性が大きい。米国社会と政治の分断は深刻であり、構造変化を基盤とするトランプ主義とトランプ型政治は強固な流れとなっている。そのため、トランプ型政治は今後8年から12年あるいはそれ以上続く可能性がある。トランプ型政治を修正するのは政権交代である。関税賦課によるインフレ、株価下落、景気低迷などが顕著になると中間選挙、大統領選挙で民主党が勝つ可能性がある。ただし、バイデン政権がトランプ1.0の対中制裁関税を継続したようにトランプ関税がどの程度是正されるかは分からない。関税保護は保護の継続を望む既得権益層を生むからである。 (1)田中雄作(2025)「米通商政策における保護主義の進展と企業の対応」、『IPEFなどの米通商政策がビジネス活動に与える影響に関する調査研究』ITI調査研究シリーズ No.163, 国際貿易投資研究所。 (2)会田弘継(2024)『それでもなぜトランプは支持されるのか』東洋経済新報社、同著はトランプ政治を理解するための必読書であり、本論は同著の分析と論述に依拠している。記して謝意を表明したい。
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石川 幸一
2025年2月24日
In 国際情勢と外交 International Affairs
第2期トランプ政権が発足して一か月を超えた。トランプ大統領は今までの大統領の4年の任期以上の仕事をしたと自賛しているが、世界そして米国内でも混乱が広がっている。トランプ政権によりASEANにどのような影響があるだろうか。  まず、追加関税だ。第一期政権ではASEANには追加関税が課せられなかったが今度は可能性が高い。課せられるのは相互関税になるだろう。次に経済援助が影響を受けそうだ。イーロン・マスク氏率いるDOGEが経済協力を担当するUSAID(国際開発局)を閉鎖したためだ。USAIDはASEANと地域開発協力協定を結び幅広い協力を行っている。つぎにIPEF(インド太平洋経済枠組)による協力も影響を受ける可能性がある。トランプ氏は選挙期間中にIPEFから離脱すると発言していた。IPEF離脱の大統領令はまだ出ていないが、先行きはどうなるか分からない。ASEANはサプライチェーン強靭化、脱炭素などで米国の協力に期待していた。  米国に対する信頼も大幅に低下し米国の影響力は小さくなるだろう。シンガポールの著名研究所ISEASが毎年実施しているASEAN有識者調査によると第一期トランプ政権では米国を信頼しないという回答が5割を上回っていた。第2期政権でも信頼できないという回答が相当増えるだろう。また、米中のどちらを選択するかについては、中国を選択が米国を選択を上回ると思われる。  友好国や同盟国にも脅迫を行い、自国第一で途上国にも関税をかけ、経済援助を削減するる米国は信頼できず、リスクであるという見方が広がることは避けられない。リスクをヘッジするためにRCEPやEUに加えて、BRIGやGCCなどグローバルサウスに接近する動きが強まるだろう。経済連携ではEUとのFTA、GCCとのFTAを結ぶ動きがでてくると思われる。  有識者調査で中国を選ぶという回答が増えても政府レベルでは、米中の間で中立を維持し、両国と掲示関係を維持する均衡戦略は維持されるだろう。中国は最大の貿易相手国、米国は最大の投資国だからだ。
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石川 幸一
2025年2月19日
In 世界経済 World Economy
第一期トランプ政権で追加関税が課されなかったASEANに追加関税の可能性がでてきた(日本、韓国、インドなども同様)。米国の対ASEAN貿易赤字が急増したためだ。2024年の米国の対ASEAN赤字は2,305憶ドルで世界2位の規模になる。ASEANで最大の貿易赤字先はベトナムだ。対ベトナム赤字額は1,243億ドルで世界3位である。続いて、タイが456億ドルで11位、マレーシアが248億ドルで14位、インドネシアが178億ドルで15位などASEAN各国は上位にくる。対中赤字額は2,954億ドルであり、近い将来ASEANが中国を抜かす可能性がある。  対ASEAN貿易赤字が急増した理由はASEANからの輸入の増加である。2018年から2024年の輸入額をみると、中国からの輸入が18.2%減少したのに対しASEANからの輸入は83.6%増加した。カンボジアは3.3倍、ベトナムは177%、タイは98%の大幅増である。米国の輸入で中国からASEANへのシフトが起きているのである。その契機は2018年の4度の25%対中追加関税導入である。対中追加関税を回避するために中国企業・在中国外資企業は中国からASEANに生産拠点を移した。2018年から2024年に中国からASEANへの製造業投資は4.4倍増加した(迂回輸出)。  ASEANへの追加関税は相互関税になる見通しだ。ASEANで平均関税が高いのはタイ(9.8%)、ベトナム、ラオス、インドネシアである。平均関税が低くても高い関税の品目は少なくないので、その他の国も相互関税の可能性がある(シンガポール、ブルネイを除く)。米国が課す相互関税は当該品目のASEANの関税率になる。ASEANの税率が米国の税率より低ければ相互関税は課されない(ただし、非関税障壁があるとみられると課される可能性がある)。ASEAN(および日本、韓国、インドなど)から米国に輸出を行う企業は、輸出品目の自国のMFN関税率、米国のMFN関税率と非関税障壁の有無をまず調査すべきであろう。
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石川 幸一
2025年2月18日
In 世界経済 World Economy
「タリフマン」を自称するトランプ大統領は「愛と宗教以外の美しい言葉は関税だ」とうそぶいている。そして、「目には目を、関税には関税を」と述べて、相互関税を導入しようとしている。中国には2018年の25%の追加関税に加えて25年1月に10%を追加し、35%の関税が課されている。トランプ大統領は、貿易赤字は経済と安全保障の脅威と発言し貿易赤字を目の敵にしている。  トランプ関税で貿易赤字は減るのだろうか。答えはNOである。2018年に対中追加関税が課され、バイデン政権でも続いたが、米国の貿易赤字は減らなかった。米国の貿易赤字の原因は米国内にあるからだ。米国の貿易赤字の要因は米国内で貯蓄に比べ投資が過剰なことだからである。なぜなら、GDP=消費+投資+輸出-輸入 GDP=消費+貯蓄 であり、消費+投資+輸出-輸入=消費+貯蓄 となり、輸出-輸入(貿易収支)=貯蓄-投資 となるからだ。また、貿易赤字、そして経常収支赤字でも資本流入により資本収支が黒字となり相殺されている。そもそも輸入により優れた商品やサービスを入手し生活を豊かにしているのは米国の消費者である。  相互関税も効果が疑問視される。相互関税により貿易相手国の関税を引き下げる効果が期待されるが、相手国が関税を引き下げても米国製品に競争力がないと輸出は伸びない。日本の自動車関税はゼロであるが、街中で米国車はみかけない。EUが10%の自動車関税を米国並みに2.5%に引き下げても米国からEUに自動車輸出が増加することは期待できないだろう。
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石川 幸一
2025年2月04日
In 国際情勢と外交 International Affairs
日本では報道されていないが、2025年にマレーシアで開催されるASEANとGCC(湾岸協力理事会)のサミットに中国が参加する。マレーシアのアンワル首相が2024年11月の中国訪問時に習近平主席を招待した。ASEANとGCCは、2023年にサウジアラビアのリャドでサミットを開催し、今後2年ごとに開催することに合意している。ASEANの議長国インドネシアのジョコ大統領とサウジアラビアのサルマン皇太子が議長となり、ASEAN・GCC協力枠組に調印した。2025年のサミットはASEANの議長国であるマレーシアが開催する。マレーシアのハサン外相は、3国・地域の枠組みをASEANの天然資源、GCCの資金、中国の市場が相互補完する戦略的トライアングルと述べている。ASEAN・GCC中国首脳サミットはハサン外相の説明を超える重要な意義を持っている。一つは、ASEANとGCCという国際経済と政治の面で極めて重要な(日本にとっても非常に重要な)グローバルサウスと中国の連携が進むことである。次にトランプ2.0で先行きが予測できず、また、関税賦課で大きな経済的な被害が予想される不確実な世界でのヘッジとなる。さらに、ASEANはGCC、中国との連携で国際政治とグローバルサウスでの発言力を高めることができる。トランプ2.0の登場で、ASEANでは米中どちらかの選択を迫られた場合、中国を選択する国が少なくないという見方がASEANでは出ていることに留意すべきである。
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石川 幸一
2024年11月04日
In 国際情勢と外交 International Affairs
ASEANは米中対立下で中立外交を行っていることは良く知られている。正確には、米中両国と緊密な外交・経済を維持しており、均衡外交あるいは二股外交と言ってよい。米中間でASEANが二股外交を行う理由は、米中両国との緊密な経済関係だ。中国とASEANは相互に最大の貿易相手国であり、米国は中国と並ぶ輸出相手であり最大の投資国である。米中両国とASEANの経済協力も活発である。中国は1991年にASEANと公式外交関係を開始したが、FTAを締結し一帯一路による協力を実施している。中国ASEAN博覧会、中国ASEANセンター(北京)、デジタル協力など個別協力は200を超える。米国はASEANとのFTAはないが、IPEFにASEAN7か国が参加しASEANコネクトなど多様な協力を実施している。ASEANは米中双方との経済関係により多大の利益を得ており、どちらかを選ぶのは非現実的であり国益に反するのである。  日米が進めているFOIP(自由で開かれたインド太平洋構想)には加わらず、ASEANは中国との協力を含むAOIPを発表した。最近では、タイ、マレーシアが中国ロシア主導のBRICSに加盟申請を行い、同時に西側主導のOECD加盟申請も行った。ASEANは中国封じ込めや中国敵視策には賛成しない。アジア版NATOにASEANが参加することはありえない。中国と国境紛争を抱え、貿易摩擦もあるインドは、Quadに参加し、IPEFのメンバーであるが、同時にBRICSの原加盟国であり、中国が主導する上海協力機構(SCO)のメンバーでもある。戦略的自律を国是とするインドもアジア版NATOに参加する可能性は小さいだろう。
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石川 幸一
2024年10月26日
In 国際情勢と外交 International Affairs
BRICSが拡大している。ブラジル、ロシア、インド、中国が参加するBRICsは2009年に創設された。2011年に南アフリカが参加しBRICSとなった。2023年の首脳会議でアルゼンチン、イラン、エジプト、エチオピア、サウジアラビア、UAEの参加が合意されたが、アルゼンチンは参加を取りやめ、サウジアラビアは検討中である。そのため、2024年1月に正式加盟したのは、イラン、エジプト、エチオピア、UAEの4か国である。  BRICSは2024年10月22日~24日にロシアのカザンで首脳会議を開いた。首脳会議には36か国が参加、外相が参加したブラジル以外の8か国首脳に加え、トルコの大統領とベトナムの首相も参加した。BRICSに参加を望む国は20を数える。途上国がBRICSに参加するのは、G7つまり米国など西側先進国主導の国際秩序への不満である。また、米国の力が徐々に低下する一方で中国が台頭しグローバルサウスの力が強まっている潮流に乗るという戦略もある。イスラム教徒の多い国ではガザ攻撃を行うイスラエルを米国や欧州が支持していることに強い不満がある。  首脳会議では、パートナー国制度が導入された。BRICS加盟予備軍といってよい。パートナー国候補は、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム、アルジェリア、ベラルーシ、ボリビア、キューバ、カザフスタン、ナイジェリア、トルコ、ウガンダ、ウズベキスタンの4か国である。注目すべきは、ASEANの4か国が入っていることだ。このうち、タイとマレーシアは今年6月、7月にBRICSへの加盟申請を行っている。インドネシアは昨年加盟申請を見送ったが、ベトナムは加盟に強い関心を示しており首脳会議に首相が参加した。  BRICSに参加申請を行ったことは、米国などに西側と中国・ロシアが激しく対立する中で中ロ側に立ったことを意味しないことに留意が必要である。タイ、マレーシアは同時期に先進国クラブといわれ西側のOECDにも参加を進めているからだ。さらに、米国主導で中国に対抗するIPEF(インド太平洋経済枠組み)にタイ、マレーシア、インドネシア、ベトナムは参加している。マレーシアとタイのBRICS参加は、貿易の増加や自国の発言力や影響力の強化を狙った国益のためのであり、同時に米国側の枠組みにも同時に参加するしたたかな二股外交と評価すべきである。
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石川 幸一
2024年10月22日
In 世界経済 World Economy
2022年に過去最高を記録した米国の対中貿易は2023年に16.7%の減少となり、とくに輸入は20.3%の大幅減(輸出は4.0%減)となった。中国は2007年以降最大の輸入先だったが、2023年はメキシコに抜かれ第2位となった。米中対立に起因するサプライチェーン再編が影響しており、カナダとメキシコからの輸入額を合計すると全輸入額の3割を占める。近隣諸国から輸入をするというニアショアリングが進められていることが示されている。  米国の対中輸入減少の要因はノートパソコンとスマートフォンである。ノートパソコンは137億ドルの減少(27.9%減)、スマートフォンは55億ドルの減少(10.9%減)だった。中国に代わって輸入が増えたのは、ノートパソコンはベトナムで約4倍増、スマートフォンではインドで約3倍増だった。ベトナム、インドからの輸入急増の要因として台湾企業が中国から生産拠点を移管していることがあげられる。台湾企業の動向に詳しい朝元照雄九州産業大名誉教授によると、台湾企業は中国からASEANに生産拠点を移管する一方で中国の生産拠点を中国企業に売却している。朝元名誉教授は、中国での「赤いサプライチェーン」と「非中国のサプライチェーン」に台湾企業のサプライチェ―ンは2分化されているとみている。非中国のサプライチェーンはベトナムやインドで展開されている。非中国のサプライチェーンは米国のフレンドショアリング政策に対応したものである。  サプライチェーン再編は、フレンドショアリングへの対応に加えて、中国での人件費などコスト増加と優遇措置消滅、知的財産権侵害、反スパイ法による駐在員の安全リスク増加、中国のデフレスパイラルによる需要減という3大要因があると朝元名誉教授は指摘している。中国企業自体もメキシコなどへの脱中国の動きをみせており、中国からのサプライチェーン再編は大きな趨勢となっていると朝元教授は論じている。スマートフォンだけでなく半導体を含めIT産業の生産基地としてインド、ベトナムはますます重要になってきていることに注目すべきである。 参考:朝元輝雄「米中対立、台湾企業の対中戦略の変化-フレンドショアリングへの移行、中国から東南アジア、インドへ―」『経済安全保障を巡る動きとサプライチェーンの再編』北陸環日本海経済交流促進協議会(北陸AJEC)、2024年4月。
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石川 幸一
2024年9月19日
In 世界経済 World Economy
2023年の日本の対中投資は38億ドルで前年比で31.9%の大幅減となった。一方、ASEANへの投資は2.9%と僅かに減少したものの229億ドルで対中投資の7倍の規模である。対中投資は2021年に125億ドルと過去最高を記録したが、2022年は56億ドル、23年は31.9億ドルと減少が加速している。対中投資の低迷は日本だけの現象ではない。2023年の世界の対中投資は1632億ドルで13.7%の減少となっている。ちなみにASEANへの投資は2263億ドルで1.2%の増加である。  対中投資の急減の理由は、①米中対立という地政学的な要因、②米国の対中貿易投資管理の強化(デカップリング)、③不動産市場の低迷など中国経済の先行き不透明性、④中国政治の強権化と外国企業や外国人への管理強化などである。日本の対中投資が大幅減になる一方でベトナム向け投資は28.1%、インド向け投資は23.0%拡大した。中国の地政学的リスクの高まりからリスクが低く生産コストも低いベトナムやインドに投資をシフトさせており、フレンドショアリングといえよう。  中国からのインドやベトナムへの投資シフトは現今の地政学的リスクへの対応だが、長期的にみても正しい選択といえる。なぜなら、中国は少子高齢化が急速に進んでいるからだ。出生率が1.4以下は「超少子化」と言われるが、中国の出生率は2023年に1.0と超少子化のレベルとなっている。現在の高齢化率は14.3%だが、2037年には24%、2050年には30.9%と予測されている。一方ASEANの出生率はシンガポールやタイを除きまだ高く、2054年まで人口増加が続き、2100年には中国の人口を上回るとされる。高齢化率も低く、2023年で7.8%である。少子高齢化、生産年齢人口の減少などにより中国の経済成長は鈍化することは確実である。日本が経験してきた高齢化に関連した経済的な影響は中国でもより明確に表れるであろう。一方、ASEANはまだ人口動態の変化が経済成長に悪影響を及ぼす段階ではなく、今後も長期間消費市場および生産基地として発展する可能性が高いのである。  東アジアの成長の中核そしてけん引力は中国からASEANに移りつつあり、そうした基盤となる長期トレンドを地政学リスクが加速しているとみるべきだろう。
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石川 幸一
2024年5月29日
In 国際情勢と外交 International Affairs
日本のメディアは、東南アジアでの一帯一路について中国は6割強を履行しなかったと報じている。これは豪州のローイー研究所の調査結果である。同研究所の調査報告を読むと、東南アジアの大型一帯一路インフラプロジェクトの33%が中止になり、33%が実施中(実現見通し)、33%が完成(履行)となっている。現時点で6割強が実現しなかったことはその通りであるが、33%は実施中で完成と実施中を合計すると67%が履行されることになる。これは、日本の東南アジアの大型インフラプロジェクトの履行率とほぼ同じである。  東南アジアの有識者調査でも米中対立で米中の選択を迫られた場合、中国を選択するが米国を選択するを上回ったと大きく報じられた。この報道は正しいが、報告書を読むと76%がASEANの強靭性と一体性を強化と中立を維持すると回答している。米中どちらかを選択するは8%に過ぎない。  中国に不利な情報のみを大きく報道し、重要な関連情報を併せて報じないのは、読者に誤った印象を与えることが懸念される。
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石川 幸一
2024年5月28日
In 国際情勢と外交 International Affairs
カンボジアはASEANの親中国国家である。一帯一路構想など中国から投資、援助を積極的に受け入れており、中国の衛星国家あるいは代理人ともいわれている。2012年のASEAN拡大外相会議では、南シナ海領域問題での中国の行動を批判する決議がカンボジアの反対でまとまらず、史上初めてASEAN外相会議で共同声明が出せない事態が起きた。中国のカンボジア政府への影響力は極めて強いが、カンボジアの国民は中国をどうみているのだろうか。  シンガポールの著名な研究所(ユスフ・イシャク研究所)が行った有識者の意識調査によると、カンボジアでは中国に対しては「信頼する」が31.8%で「信頼しない」という回答が48.7%で多い。一方で米国に対しては「信頼する」が56.6%に対して「信頼しない」が29.1%となっている。カンボジアでは中国より米国のほうが信頼されているのである。  米中対立下で米中どちらかを選択しなければならないとすればどちらを選択するかについては、「米国を選択する」が55%、「中国を選択する」が45%と米国の方が多くなっている。また、台湾有事での対応については、「中国への支持表明」1.1%に対して「台湾への軍事援助」が10.6%となっている。  中国マネーによりカンボジア政府への強い影響力を獲得しているが、カンボジア国民の心はつかめていない。カンボジアでの中国のパブリック・ディプロマシーは失敗しているといえよう。
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石川 幸一
2024年5月22日
In 世界経済 World Economy
豪州のローイー研究所の調査によるとASEANでの一帯一路の大型インフラプロジェクトは中止や遅れ、規模縮小などが多く、多くの問題を抱えている。ASEANでの中国の一帯一路による10億ドル以上の大型インフラプロジェクトは24件ある。内訳は、電力が14件、輸送が10件(うち鉄道が10件)だ。24件のうち完成は8件、160億ドル、完成の見通しが8件、350億ドル、中止が5件、210億ドル、進展の見通しなしが3件、50億ドルである。完成したプロジェクトは件数で33%、金額で21%となる。一方、中止と見通しなしを合計すると件数で33%、金額でも33%となる。  中止や遅れ、規模縮小の原因は、①受入国の政権交代など政治状況の変化、②住民などの反対、③エネルギートランジションである。政権交代によりフィリピンの鉄道プロジェクト3件が中止になり、フィリピンは一帯一路を離脱と報じられている。マレーシアの東海岸鉄道は規模が縮小され、凍結から工事が再開された。また、2件のパイプラインプロジェクトは中止となった。地元住民の反対による遅れの典型例はインドネシアのジャカルタ―バンドン高速鉄道であり、大幅に遅れ建設費は予算を12億ドル上回ってしまった。エネルギートランジションはベトナムの石炭火力発電所の中止などの影響を与えている。  このように一帯一路は様々な問題点に直面している。ただし、完成と完成見通しを合計すると件数、金額とも67%となるし、金額の510億ドルは日本のASEANでの大型インプラプロジェクトの220億ドルの2倍以上である。一帯一路は様々な問題はあるが依然として重要である。
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石川 幸一
2024年5月08日
In 世界経済 World Economy
外国人観光客誘致がインバウンド政策と銘打って熱心に取り組まれ、円安の効果も手伝い外交人観光客が急増している。観光地だけでなく、交通機関や駅、街中でトランクを持った外国人をよくみかける。この勢いであれば、コロナ前の外国人訪日数を超えるのは確実であろう。そうした中でマスコミで頻繁に報じるようになったのがオーバーツーリズムである。この数日は、コンビニに屋根越しに富士山をみるために多くの外国人が殺到し、交通ルールを無視しゴミを捨てるなどの迷惑行為が頻発している映像がテレビで流されている。こうした迷惑行為をなくすための対応は急務になっている。  一方、オーバーツーリズム批判が行き過ぎて外国人観光客がネガティブなイメージを持つことになり訪日外国人が減少することは避けねばならない。2019年の外国人旅行者数をみると1位のフランスが8932万人、2位スペインが8380万人であり、6位のトルコが3991万人などとなっている。日本は12位で3188万人である。これらの国は日本より人口、GDPが小さく、国土も似たような国である。GDP、人口とも日本よりずっと小さいタイでも3991万人で日本より大きい。日本は、経済規模や人口からみてまだまだインバウンド数は小さいことを7認識すべきだ。オーバーツーリズムへの対応はこれらの国の対策なども参考にして早急に取り組むべきだ。物の輸出競争力が低下しており、可能性の大きいサービス輸出であるインバウンドの拡大策を続けるべきである。
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石川 幸一
2024年5月08日
In 世界経済 World Economy
米国大統領選挙は大接戦となっており、どちらが当選するのか予測は困難であるが、バイデンが当選してもトランプが当選しても中国に対する厳しい貿易投資規制が続くのは間違いない。トランプは中国製品への60%関税賦課を主張しているし、バイデンは追加関税を継続し半導体など先端技術を対象とする貿易投資規制を強化拡大している。  米中対立が激化拡大しているが、中国は米国のアジアで2位の投資先であり、中国進出米国企業は1956社を数え、アジアで第1位、世界でも第4位だ。米国の投資残高は同盟国日本の1.6倍、進出企業数は同じく2.6倍である。米国企業は中国市場の成長性を高く評価している一方で米中関係の緊張の高まりが最大の懸念となっている。米国企業が米国政府の期待しているのは、攻撃的な言語使用や報復的な行動の自制である。昨年12月には1年ぶりに首脳会談が行われ、協力可能分野での連携やハイレベルでの協議の継続などが合意されたが、対中政策は国内政治問題でもあり、大統領選挙もからんで米国企業の期待が実現するのは難しそうだ。
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石川 幸一

その他
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