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「最高人民法院による労働争議事件審理における法律適用問題に関する解釈(二)」その1

高橋 孝治           

(環太平洋アジア交流協会 研究員/

立教大学 アジア地域研究所 特任研究員)


※本稿において、[ ]は直前の単語の中国語の原文を意味し、初出にのみ付した。

1.司法解釈とは

日本においては、法律に規定されていない部分について、法律がどのように運用されるのかを示すのは、最高裁判所による判例となります。しかし、中華人民共和国(以下「中国」といいます)では、最高人民法院の案例は、その案件以外の案件には法解釈の指針を制度上も事実上も与えません(註1)。どういうことなのかというと、中国では、裁判結果は、その案件のみに効果を持ち、法解釈の指針を示すものではないということです。そのため、裁判結果は、その案件における判断例であるということを強調するために、中国では裁判結果は、「案例」と呼ばれています。

それでは、中国では法律に規定されていないような部分についての法律の適用指針はどのように示されるのでしょうか。中国では、法律の隙間を埋めるために、「司法解釈」というものが定められることがあります。司法解釈とは、最高人民法院もしくは最高人民検察院が、実際に事件が発生しているかに関係なく、法律などと同じ形式で法律の解釈方法について定めた上で発布するものです。司法解釈は、実際に事件が発生しているかに関係なく、さらには時には単なる法解釈の範囲を超えて制定されることがあり、最高人民法院もしくは最高人民検察院は、能動的な法創造ともいえる「準立法」ができるものと批判されることもあります(註2)。


2.最高人民法院による労働争議事件審理における法律適用問題に関する解釈(二)

さて、そのような司法解釈ですが、2025年7月31日に労働法分野で新しい司法解釈が発表となりました。その司法解釈は、「最高人民法院による労働争議事件審理における法律適用問題に関する解釈(二)[最高人民法院関于審理労働争議案件適用法律問題的解釈(二)]」といい、2025年2月17日に最高人民法院審判委員会第1942回会議で可決され、同年7月31日に発布され、同年9月1日から施行されています(法釋〔2025〕12号。以下「労働解釈二」といいます)。

労働解釈二は全21条で、その施行と同時に、「最高人民法院による労働争議事件審理における法律適用問題に関する解釈(一)[最高人民法院関于審理労働争議案件適用法律問題的解釈(一)]」(2020年12月29日法釋〔2020〕26号発布、翌年1月1日施行。以下「労働解釈一」といいます)が廃止となっているため、事実上労働解釈一を置き換える司法解釈であると言えるでしょう。


3.請負業者に関する規定(第1条、第2条)

労働解釈二の第1条と第2条は、以下のような条文となっており、請負業者に関する規定となっています。

  • 第1条 合法的な経営資格を有する請負業者が、その業務を合法的な経営資格を持たない組織または個人に再委託または下請けした場合、その合法的な経営資格を持たない組織または個人が雇用した労働者が、請負業者を雇用主としての責任主体と認め、賃金支払い、労災認定後の労災保険給付等の責任を負うよう請求するときは、人民法院は法に基づきこれを支持する。

  • 第2条 合法的な経営資格を持たない組織または個人が、合法的な経営資格を有する組織の名称を使って経営を行っていた場合、その名を使った組織または個人が雇用した労働者が、名義貸しをした組織を雇用主としての主体的責任を負う単位と認め、賃金の支払い、労災認定後の労災保険給付等の責任を負うことを求める請求をしたときは、人民法院は法に基づきこれを支持する。


 このように、請負業者が再下請けに出した場合や、請負業者に名義貸しをしていた場合の企業責任について規定しています。

 もっとも、労働解釈一にはこれに類する規定はなく、この点については労働解釈二による新法であると言えます。


〈注〉

(1)髙見澤磨=鈴木賢[ほか]『現代中国法入門』(第9版)有斐閣、2022年、123頁。

(2)徐行「現代中国における訴訟と裁判規範のダイナミックス(1)――司法解釈と指導性案例を中心に――」『北大法学論集』(62巻4号)、北海道大学大学院法学研究科、2011年、1022頁。

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