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中国における台湾への法適用を巡る問題 ――泉州公安局の犯罪容疑者懸賞通告を見る

※本稿において、[ ]は直前の単語の中国語の原文を意味し、初出にのみ付した。



 中華人民共和国(以下「中国」といいます)福建省泉州市の公安局が、2025年11月13日に犯罪容疑者に関する懸賞通告を発表しました。懸賞通告とは、重大な犯罪容疑者の行方が分からないなどの際に、広く一般人から情報提供を求め、有益な情報がもたらされた場合には、一定金額の報奨金を出すというものです。今回の懸賞通告は、容疑者の逮捕に貢献を求めるものなので、事実上の「指名手配」と言えるでしょう。

 中国における懸賞通告の法的根拠は、「公安機関の刑事案件の処理規定[公安機関弁理刑事案件程序規定]」(1998年5月14日公安部発布・施行(公安部令第35号)、2012年12月13日公安部発布で最終改正、翌年1月1日改正法施行(公安部令第127号))第270条~第272条です。これらの条文は以下のように規定されています。

 

第270条 重大な犯罪の手がかりを発見し、事件に関連する財産や証拠を追徴し、犯罪容疑者を検挙するために必要な場合、県級以上の公安機関の責任者の承認を得て、懸賞通告を発布することができる。

懸賞通告には、懸賞対象の基本情報と懸賞金の具体的な金額を明記しなければならない。

 

第271条 指名手配書および懸賞通告は広く掲示するとともに、ラジオ、テレビ、新聞、コンピュータネットワーク等の方法により公表することができる。

 

第272条 これらにより、犯罪容疑者が自首したり、殺害されたり、または逮捕され、その他指名手配や国境警備、懸賞通告を発出する必要がなくなった場合、発出した機関は元々の手配書、通知、通告の範囲内で、手配書、国境管理通知、懸賞通告を取り消さなければならない。

 

 そして、このような規定を根拠にして、2025年11月13日に新しい懸賞通告が発布され、その内容は以下の通りです。甲と乙、2人に対する指名手配で、罪状は、台湾のインターネットサイト上に大量に「反中国、中国反抗」に関する書き込みを行い、国家分裂の言論を煽り、大陸(中国)侵攻、大陸(中国)の台湾優遇政策を批判し、台湾で活動する中国アイドルを騙し、攻撃し、「台湾独立」に向かう大きな悪影響を与えたため、刑法(1979年7月6日全国人民代表大会常務委員会令第5号公布、翌年1月1日施行。1997年3月14日主席令第83号公布で全面改正、同年10月1日改正法施行。2023年12月29日主席令第18号公布で最終改正、翌年3月1日改正法施行。以下「中国刑法」といいます)第103条に規定する国家分裂扇動罪に該当するとしています。なお、中国刑法第103条の条文は以下の通りです。

 

第103条 国家を分裂させ、国家統一を破壊することを組織し、計画し、実行した者は、首謀者または罪状が重大な者は、無期懲役または10年以上の有期懲役に処する。積極的にこれに参加した者は、3年以上10年以下の有期懲役に処する。その他の参加者は、3年以下の有期懲役、拘留、管制または政治的権利の剥奪に処する。

国家分裂を扇動し、国家統一を破壊した者は、5年以下の懲役、拘留、管制又は政治的権利の剥奪に処する。首謀者又は罪状が重大な者は、5年以上の懲役に処する。

 

 そして、泉州公安局は、甲と乙という2人の容疑者の逮捕に功績のあった者には、5万から25万元の褒賞を与え、この2人を匿うなど逃亡に協力した者にも法的責任を取らせるとしています。

 この問題は、単純に台湾の独立運動に参加している者には、5万から25万元の資金を用いても中国当局は取り締まりたいという単純な問題ではありません。泉州公安局が公開している情報によると、この容疑者甲と乙は、「中国台湾省の身分証番号」を持っているということです。つまり、この2人の容疑者は、中国人ではなく台湾人であると考えられます。この事件が、中国人が台湾独立などを謳っているという内容であればそこまで問題にはなりません。しかし、この2人の容疑者が台湾人である場合、中国当局が、「台湾で台湾人が民間人として台湾独立」を謳っても、中国で指名手配できるとしている法的根拠としては、以下のように考えられます。

まず、中国刑法8条は、「外国人が中華人民共和国の領域外において中華人民共和国の国家または公民に対して犯罪を行い、本法で定める最低刑が3年以上の懲役に相当する場合、本法を適用することができる。ただし、犯罪地の法律により処罰を受けない場合はこの限りではない」と規定しています。

中国刑法第103条は、重大な行為、単に参加した場合いずれの場合でも3年以上の懲役を規定しているため、中国刑法第8条の要件は満たします。しかし、中国刑法第8条で、台湾を「外国」として中国刑法を適用したとしても、台湾に「台湾独立を進める行動を犯罪とする」という法律があるはずもなく、中国刑法第8条の「犯罪地の法律により処罰を受けない場合はこの限りではないという規定により、台湾にいる台湾人に中国刑法第8条を用いて中国刑法第103条を適用することはできないはずです。むろん、本件の甲と乙は、国家分裂扇動行為だけでなく、「台湾で活動する中国アイドルを騙し、攻撃し」ているため、詐欺罪などであれば台湾にも規定があるものの、懸賞通告が明確に「中国刑法第103条に規定する国家分裂扇動罪に該当する」としているため、そのようには解釈していないものと思われます。

 すると、中国当局にとっては、台湾は中国政府が統治できていないだけで、中国の法律も全て台湾でも効力があるという立場を取っており、台湾にも直接中国刑法第103条が適用されるという解釈を行っていると考えられます。また、このような解釈がなされているとすると、中国刑法第103条のみならず、全ての中国法が台湾でも施行されているという前提が存在することになります。そのため、今後も中国法が台湾にも適用されているという論理が展開される可能性を秘めていると言えます。

 その意味で、中国当局にとっての中国と台湾を巡る法的問題に大きな一石を投じた事例と言えるでしょう。


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「懸賞通告」(泉州市公安局ウェブサイト)

https://gaj.quanzhou.gov.cn/jwzx/gayw/202511/t20251113_3230264.htm〉

2025年11月13日更新、2025年11月17日閲覧。

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