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中国の刑務所内の実態の告発から中国法を考える

 2026年7月30日に、デイリー新潮のウェブサイトで、中国の刑務所の内部の悲惨な実態が国際人権団体の報告書によって明らかにされたと報道されました(注1)。これによれば、あるオーストラリア人の囚人は、2020年1月に、修理に出していたスマートフォンを引き取りに行った際、電器店の店主から不当な追加料金を要求され、拒否して立ち去ろうとしたところ、警備員らから暴行を受け、駆けつけた警察は店側の「この外人が代金を踏み倒した」という主張を鵜呑みにして、「強盗」容疑で現行犯逮捕され、そのまま有罪となり、刑務所内で囚人同士の争いに巻き込まれ、看守に反抗したなどとされ、懲罰として独房に194日間監禁させられ、鎖につながれた鉄の脚錠をはめられ、感染症にかかっても治療を受けられず、看守からは繰り返し殴られ、スタンガンで関電させられ、催涙スプレーを浴びせられるなど「実際には虐待と拷問だった」と語るような日々を過ごすことになったと言います。

 このニュース記事では、アメリカ合衆国(以下「アメリカ」)在住の中国人弁護士の「中国の刑務所法では、受刑者の独房での拘禁期間は最長で15日の範囲と定められている」、「194日の連続拘禁は明らかに刑務所法に違反している」とのコメントも掲載されています。

 また、その他、中国のウイグル族で、新疆ウイグル自治区の独立を呼び掛けていたとされ、国家分裂罪で投獄されていた囚人には10日間にわたり食事が提供されず、20日間以上にわたり足枷を駆けられ、イスラム教徒が口にできない食材を出され、事実上の絶食を強いられていたという話も掲載されています。

 そして、中国の監獄法(1994年12月29日公布・施行。2012年10月26日公布・施行で改正。2026年4月30日公布で最終改正、同年11月1日改正法施行予定)第58条第1項本文は、「刑務所の秩序を乱す以下のいずれかの行為を行った受刑者は、警告、記録に記載または独房監禁の刑に処すことができる」と規定し(注2)、同条第1号は「刑務所内で騒乱を起こし、通常の刑務所秩序を乱す目的で群衆を集めること」と規定しています(注3)。このニュースのオーストラリア人の囚人が「刑務所内で囚人同士の争いに巻き込まれ、看守に反抗した」とされる行為が具体的にはどのような行為かは分かりません。しかし、この監獄法第58条第1項第1号に該当するとされたのでしょう。

 そして、監獄法第58条第2項は「前項に基づき受刑者に科される独房監禁の期間は、7日から15日間とする」と規定しています(注4)。アメリカ在住中国人弁護士が指摘している条文は、この監獄法第58条第2項であると考えられます。

 さらに、監獄法第7条は「犯罪者の尊厳は侵害されてはならず、その身体の安全、正当な財産、弁護権、控訴権、告訴権、報告権、その他法律によって剥奪または制限されていない権利は侵害されてはならない」と規定しています(注5)。つまり、中国であっても、刑務所内で、食事を与えないとか、感染症の治療をしないという待遇は、「身体の安全に対する権利」の侵害と考えられ、監獄法に違反するということになるものと思われます。

 そして、監獄法第14条第1項第5号では「刑務官の受刑者への殴打」が禁止されており、これに違反した場合、犯罪として処罰されることもあると規定されています(注6)。

 そして、この監獄法のどの規定を読んでも、このような監獄法の規定の例外適用、すなわち「この法律に定めがないこともできる」とする規定はありません。そうすると、中国の刑務所とは無法地帯ということになるのでしょうか。

 これまでの中国法理解の中では、政治的に中国共産党の指導に反するような行動により処罰される場合は、法の枠外に置かれ、非法な裁き方が合法的に行われると考えられてきました(注7)。そのため、中国共産党の指導とは異なる新疆ウイグル自治区の独立運動を行った囚人に対する刑務所内での対応は「一応の」説明は可能です。問題なのは、政治的要素の全くないオーストラリア人の囚人に対する刑務所内での処遇です。中国の刑務所は無法地帯ということなのでしょうか。

 これについては、中国法は、劇場のような側面があり、「観客」という一般大衆からは見えない、言わば国家の「楽屋」のような場所では、法に定められていない行為がまかり通っているという指摘もあります(注8)。そうすると、中国の一般大衆からも見えない「刑務所の中」では、違法行為がまかり通っているということになります。しかし、今回取り上げたニュース記事はそれを告発するものでした。

 これでは、確かに何をされるか分からない以上、中国で日本人が拘束された場合、実際にその日本人が中国で法に触れる行為をしていて、刑務所に行くことが相当であったとしても、かなりの「恐怖」があることになります。

 

〈注〉

(1)「『スタンガンで感電させられ、上の階から排泄物が…』 『習近平』が黙認、日本人駐在員が恐怖する『中国刑務所』の“残酷すぎる実態” 半年分の労働の“信じられない賃金”とは」(デイリー新潮ウェブサイト)〈https://www.dailyshincho.jp/article/2026/07301000/〉2026年7月30日更新、2026年8月17日閲覧。

(2) 2026年11月1日の改正法施行後は、改正法第84条第1項本文の「刑務所の秩序を乱す以下のいずれかの行為を行った受刑者は、警告、記録に記載または独房監禁の刑に処すものとする」という規定が適用される。

(3) 2026年11月1日の改正法施行後の改正法第84条第1項第1号も同じ規定。

(4) 2026年11月1日の改正法施行後の改正法第84条第2項は、「犯罪者に対する独房監禁期間は15日以下でなければならない」と規定している。

(5) 2026年11月1日の改正法施行後の改正法第26条第1項は「(第1項)刑務所は、被収容者が収監中に法的に有する権利を侵害しないよう確保しなければならない。(第2項)被収容者の尊厳は侵害されてはならず、また、被収容者の身体の安全、正当な財産、弁護権、控訴権、告訴権、報告権、その他法的に剥奪または制限されていない権利も侵害されてはならない」と規定し、第27条は「刑務所は、法律に従い、被収容者の生命および健康を保護しなければならない。被収容者が病気であると認められた場合は、規則に従って治療を行わなければならない」と規定している。

(6) 2026年11月1日の改正法施行後の改正法第23条第1項第3号も刑務官による受刑者の殴打を禁止している。

(7) 高橋孝治『中国社会の法社会学――「無秩序」の奥にある法則の探究』明石書店、2019年、71頁。

(8) 高橋孝治・前掲注(7)163~168頁。

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