ドンロー主義の狙いはパナマ運河確保、キューバつぶし、さらにグリーンランド支配も
アジア問題ジャーナリスト 日暮高則
昨年11月、トランプ米政権は「2025年国家安全保障戦略」なる外交方針を提示し、この中で「ドンロー主義」という考え方を打ち出した。これは、「西半球の安定と安全を第一とする」とうたうものの、実質的には米大陸における米国の覇権確立を強調したものだ。海洋進出を図る中国が近年、この中南米諸国にも影響力を及ぼしていることから、米国は武力を背景にして中国になびかないよう威圧行動に出ている。
この地域にはもともと、米国の強硬姿勢に反発し、社会主義を標榜する国家が多い。中でもキューバがもっとも反抗的である。米国はキューバを封じ込めるため、ベネズエラのマドゥーロ大統領を逮捕連行する実際行動で恐怖心をあおり、メキシコ、コロンビアなどにも直に警告を発している。こうした米国の動きに中国は反発し、パナマ運河の譲渡問題では香港企業に圧力をかけ、キューバへの支援を模索している。中南米をめぐる米中の確執は続きそうだ。
トランプ氏はまた、デンマークの自治領グリーンランドも西半球の中にあるとして、その領有にも意欲を示している。だが、これはNATO内の確執を招くことになるので、そう簡単にはいかないであろう。
<ドンロー主義>
ドンロー主義とは「ドナルド・トランプ版のモンロー主義」の意味である。第5代米大統領ジェームズ・モンローの名から取られた「モンロー主義」はもともと、「欧州は米大陸に干渉するな。その代わり、われわれも欧州の問題には介入しない」という趣旨だった。
18世紀末に英国から独立を勝ち取った米国が1823年、モンロー・ドクトリンを示したことから、中南米大陸人民も勇気づけられ、スペイン、ポルトガルの植民地支配から脱した。つまり当時は、他大陸に手を伸ばす欧州列強の力が優勢で、米国はそれを阻止したいという防御的な意味合いが強かったのである。
だが、ドンロー主義は、米国が対欧州で中南米諸国と共同戦線を張るというスタンスでなく、米国が中南米諸国を支配するという意味に使われている。米国への麻薬持ち込みを阻止するために、ベネズエラの小型船舶をいきなり撃沈したり、慣習国際法など一切無視する形でマドゥーロ大統領を拉致、連行したりと勝手し放題だ。
要は、米国の言うことを聞かなければ実力行動に出るという構えで、トランプ政権の暴挙はベネズエラにとどまらない。反米的な態度を示すコロンビアの左翼政権グスタボ・ペトロ大統領に対しても、「麻薬密売に関与する指導者」とのレッテルを張り、マドゥーロ大統領同様の強硬手段に出ることを示唆。その威嚇の下で、本人がワシントンに来て、話し合いに応じるよう求めた。
中南米諸国は従来から大国・米国の「裏庭国家(バックヤードカントリー)」と言われ、その影響下にあったことは否めない。ところが近年、多くの国家がキューバと同じように社会主義志向を強め、米国との関係をトーンダウンさせてきた。米国の力を借りて運河を造ってきたパナマは2017年、台湾と断交し、中国と国交を樹立。一年後には中国の広域経済圏構想「一帯一路」にも与している。
メキシコのシェインバウム大統領も反米リベラル色が強いため、トランプ大統領は厳しい姿勢で臨む。中国から入る合成麻薬「フェンタニル」の原料をストップさせ、さらには、キューバへの石油供給の停止も求めた。
メキシコは2025年時点で世界第11位の石油産出国であり、純輸出量としては第13番目の位置にいる。つまり、メキシコにとっては貴重な輸出品であり、近場のキューバは“お得意さん”である。
トランプ大統領はそれを阻止するため、「供給するなら高関税を課す」と恫喝。米国はこれ以前、ベネズエラからキューバに行く石油を遮断したが、他の産油国に対しても同様の措置を取るよう求めたのである。
<米の狙いはキューバ>
ドンロー主義に基づいた米政権の動きを見ると、ベネズエラ事件以後締め付けを強める第一の対象国がキューバであることが明白になった。トランプ大統領は1月29日、改めてキューバに石油供給する国を対象に、「それらの国が米国に輸入する品目については、追加関税を課す」との大統領令を出した。

これは前述のように、事実上、メキシコに対する圧力に他ならない。同国が2025年にキューバに出した石油の量は一日平均1万2284バレルで、これはベネズエラの供給量を上回り、最大の供給国になっているからだ。
ベネズエラ事件後も、メキシコ大統領は「世界各国と連帯して、人道上の支援は続ける」と、キューバへの石油供給を止めない意向を表明した。だが一方で、米側の圧力によって、供給停止に踏み切ることを内々に検討し始めたとのメディア情報もある。
米国は現在、メキシコに25%の関税を課しているが、フェンタニル問題や米国への不法移民問題の対応いかんでは30%まで関税アップするとの脅しをかけている。
キューバへの石油輸出を口実に関税の数字がさらに上がってはたまらないという思いもメキシコ側にはある。また、トランプ氏による追加関税の圧力は中国やロシアに対してキューバへの石油供給はするなという警告でもあろう。
キューバはベネズエラからの石油を絶たれ、電力不足に陥っている。工場が稼働しなくなり、生活インフラも機能しないので食糧供給にも影響が出始めた。もともと同国は食糧の多くを輸入に頼っている。
米国務省は2月5日、キューバに対し追加で600万ドル規模の“人道支援”を提供すると発表したが、この程度では焼け石に水だ。一連の締め付け措置は、マルコ・ルビオ国務長官の影響が大きいと言われる。
ルビオ氏は、両親がキューバから米フロリダ州に逃れてきた移民の子であり、激しい共産主義嫌悪感を持つ。現に、米国が圧力をかける理由について、「キューバ人民には政治的、経済的自由が必要だ。それが与えられれば、米国の圧力はなくなる」と、露骨に体制変革を求める意向を示している。
中国外務省スポークスマンはこうした米側の圧力に対して、「国民の生存権を奪い、地域の平和を損なうものだ」と非難。キューバのブルーノ・ロドリゲス外相は2月初め、早速北京を訪問して王毅外相と会談した。現時点で、キューバにとって頼るべき最大の同盟国が中国であることを物語る。
王氏は「過去どんなに国際情勢が動こうと、両国は同じ舟に乗る信頼関係があった」と強調、その上で「ラテンアメリカでは今、深刻かつ複雑な変化があるが、中国は一貫してキューバの主権と安全を守り、外部勢力の干渉に反対する」と、連帯する立場を表明した。
歴史を遡れば、フィデル・カストロ政権時代の1962年、ソ連がキューバにミサイルを持ち込もうとしてジョン・F・ケネディ米政権から海上封鎖を受けた。今でも語られる核戦争に一番近づいたとされる「キューバ危機」である。
つまり、キューバはカストロ革命後筋金入りの反米であり、現在に至るまで米国に激しく反抗している。中国は、そうしたキューバを高く評価しており、中南米における“中核同志国”と位置付け、政治的な関係だけでなく、経済的なつながりも強化してきた。
近年でも、2016年に李克強首相が同国を訪問、「エネルギー産業と投資協力に枠組みに関する協定書」に署名、2018年には広域経済圏構想「一帯一路」についても合意の覚書を交わした。
同国の港湾建設などの公共事業には中国の国有企業が参画している。2月の外相会談でも相応の支援を約束したのではなかろうか。それだけにトランプ政権も、中国のキューバ支援を妨害しようとさまざまな行動を取っている。
トランプ氏は、キューバにはベネズエラのような斬首作戦、大統領拉致という乱暴な手を使わないで、“兵糧攻め”に徹しているようだ。米国自身が経済制裁しているほか、第3国からの支援も許さない構えだ。
これに対し中国は、ウクライナ戦争中のロシアや、西側の制裁を受けているイランから安く仕入れた石油をキューバに横流しするのも一つの支援方法だ。だが、米国がカリブ海の監視を強めているので、現実的には難しい。
キューバ国内では燃料や食料の価格高騰があり、深刻な生活不安が起きている。これを受けて、グテーレス国連事務総長は「人道的状況を非常に懸念している」と述べ、米国が同国に課してきた30年来の経済制裁を解除するよう強く求めている。
だが、もともと国連の活動など歯牙にもかけないトランプ大統領は聞く耳を持たない。キューバは依然厳しい経済状況に置かれており、今後難民の大量流出なども考えられよう。
<パナマ運河めぐる米中抗争>
今起きているパナマ運河問題とは、香港企業の「長江実業(CKハチソン)」が、所有している運河入り口のバルボア港(太平洋側)、クリストバル港(カリブ海側)の両港湾利権を米国の資金運用会社「ブラックロック(BLK)」に売却しようという取引話だ。昨年の日中建協NEWS275号でも触れたが、2月末現在、この譲渡問題はいまだに決着していない。北京当局が介入して、香港企業に圧力をかけているからである。
中国党・政府の影響下にある香港企業がパナマ運河の管理権を持ち続ければ、米国は太平洋有事の際、大西洋に展開する米国の海軍艦隊、輸送船などをスムーズに移動できない。逆に、CKハチソン管理のままなら、中国にとってはキューバ支援などに都合が良いし、台湾侵攻などの時に有利な立場にも立てる。
したがって、パナマ運河問題とは、香港企業とパナマ政府の対立でなく、実際は、太平洋からさらにはカリブ海、中南米への影響力拡大を目指す中国と、それを阻止しようとする米国との対立なのである。
パナマ運河はもともと米国が1914年に完成し、管理していたが、1977年、ジミー・カーター民主党政権時代に調印した新条約に基づき、管理権をパナマ政府に移管した。
トランプ氏はこうした民主党政権時代の国際協調的な姿勢を苦々しく思っていたはずだ。近年CKハチソンがBLKに売却を持ちかけて交渉に入ったのも、裏でトランプ氏の意向を受けたものではないかと推測できる。
CKハチソンの実質オーナーである香港人の李嘉誠氏はどちらかと言えば国益より企業利益を優先させるビジネスマン。中国国内に持つ不動産物件を売りまくって欧州に資産シフトし、中国不動産バブル崩壊の原因の一つを作ったとも言われる。パナマ運河両港の譲渡についても純粋に利潤確保のビジネスベースで成立させたかったのではなかろうか。
しかし、中国政府の横やりが入ったことで、この取引を再検討せざるを得なくなった。一説によれば、李嘉誠氏は、両港利権の売却先としてブラックロックのほかに、中国の国有企業、具体的には中国の海運業界トップの「中国遠洋運輸総公司(COSCO)」もかませることを構想、米中双方の理解を得ようとしたと言われる。しかし、それでは中国の影響力が残り、米側が納得するわけはない。
このパナマ運河利権取引に関して、今年に入って新たな動きが出てきた。パナマの最高裁判所が1月29日、「CKハチソンがバルボア港、クリストバル港の2つの港湾の開発、建設、運営、管理権を持つのはパナマ国憲法に違反する」と裁定したのだ。
さすがに、最高裁は、利権取得を希望しているBLKに売却すべきだとまでは言及していないが、事実上、CKハチソンの所有、管理権を取り上げた格好だ。
パナマのホセ・ラウル・ムリーノ政権は現在、中南米地域から中国の影響力を排除するという米国の意向に沿って行動しており、最高裁の今回の裁定もその一環と見られる。現に、米政府はこの裁定が出たあと、中米諸国と連名で裁定を称賛する声明を発表した。
一方、中国国務院の香港マカオ弁公室は「ばかげている。恥ずべき、哀れな裁定である。中国は公正な国際経済貿易秩序を守るため、十分な手段を取る」と激しく反発、「パナマが最高裁通りの手続きを進めるならば、大きな代償を払うことになる」との脅しもかけた。
CKハチソンは2月4日、パナマ政府に対し国際仲裁の手続きを始めたと発表した。国際仲裁とは、国際的な取引などで紛争が生じた場合、両当事者が選任した第三者(仲裁人)を入れて解決策を探る方法であり、裁判以外の紛争解決手続きの一つと言われる。
そんな中、ムリーノ大統領は2月23日、最高裁の裁定通り、CKハチソンの持つ両港湾管理権を強制的に接収する動きに出た。大統領は「港湾内の管理、運営権はパナマ海事局に移管された。運河での船舶運航は今後も安全に効率よく確保される」と述べた。
現地紙「ラ・プレンサ」によれば、両港湾の一つは、コンテナ輸送の世界的企業「APモラー・マースク」傘下の企業、もう一つの港湾はスイスに本部がある海運企業「地中海船舶企業(MSC)」傘下の地元企業が管理することになったという。
このパナマ政府の措置によって、CKハチソンの港湾労働者は“異動”を余技なくされた。政府は「労働者が現場に残っていれば、刑事訴追する」と強気な姿勢を示し、排除に乗り出した。CKハチソンが国際仲裁を求めても、その解決には長い時間がかかりそうで、裁定前に事実上、パナマ側によって非CKハチソン管理が既成事実化されていきそうだ。
<その他の南米諸国>
コロンビア左翼政権のグスタボ・ペトロ大統領は2025年5月に訪中して習近平国家主席と会談、「一帯一路」の協力文書に署名している。それほど中国との関係は良好なのだが、マドゥーロ事件後、半ば米側の高圧的な来訪要求によって、今年2月3日、ワシントンに赴くことになった。
ペトロ氏はマドゥーロ氏の拉致を見て、自らにも危害が及ぶのを恐れ、米国とは話し合いで問題解決を図りたいと考えたようだ。首脳会談で、ペトロ氏は麻薬の取り締まりを厳格にし、とりわけ犯罪組織がつくる麻薬が米国に入らないよう相応の措置を講じることを約束した。
コロンビアとベネズエラは長い国境を擁しており、犯罪組織「メテジン・カルテル」はこの国境地帯で麻薬の原料コカを栽培している。そのため、ベネズエラを準支配下に収めたトランプ氏は、国境をまたぐ両国軍隊の連携によって掃討作戦を展開するよう求めたようである。
コロンビア政府はこれまで、麻薬組織とある種の”共存“を図って経済を維持してきたことは確かであり、それが「麻薬国家」との悪名にもつながった。トランプ氏も「コカインを製造し米国に売るのが好きな、病んだ男が国を運営している。長くは続かない」とペトロ氏を批判し、暗に実力排除を示唆していた。そのため、大統領も米側の軍門に下らざるを得なくなったのである。
麻薬犯罪組織に関しては、メキシコも同様に米側の要求に応じている。同国政府は1月末、拘束中の麻薬犯罪集団「ハリスコ新世代カルテル」の構成員37人を米側に引き渡したほか、2月22日、同組織のリーダー「エル・メンチョ」ことネメシオ・オセゲラ・セルバンテスを殺害している。
同集団はフェンタニル製造にも絡んでいると言われており、米側にとっては、この合成麻薬の中国ルートを切断したとなれば、大きな成果である。
トランプ政権は「メキシコは麻薬カルテルが支配している」と発言し、場合によっては軍事行動も辞さない姿勢を示していた。シェインバウム大統領がフェンタニル原料の輸入問題で対中関係を悪化させてまでして身柄引き渡しに応じたのも、こうした米側の脅しがあったためだ。
米国にはこれまでも、「自国の裏庭国家」とみなす中南米諸国に他の大国が進出、介入することを許さないとの戦略方針があったが、トランプ政権2期目はドンロー主義を掲げて、その考え方を一段と進め、自らの支配力を強めたい意向のようだ。
友好姿勢を示すアルゼンチンのような国には通貨スワップ枠を設定したり、財政支援をしたりの懐柔策を取る半面、反米姿勢の国には大統領拉致のような暴力と脅しで対処している。アメとムチを巧妙に使い分けている。
そんな中で、米国の脅しに屈しない国もある。ウルグアイのヤマンドゥー・オルシ大統領は2月3日から北京を訪問し、習主席との間で科学、技術、貿易に多方面に関する協定書に調印した。習主席は、この協定について「多極化の世界と包括的な経済グローバリゼーションを推進する上で意義がある」と述べ、「戦略的パートナーシップ」の確立を歓迎した。
これに対し、米国政府は「トランプ大統領の警告にもかかわらず、オルシ大統領は中国との関係強化を止められないという姿勢を見せた」と述べ、相当の不快感を示した。農業国のウルグアイは牛肉、大豆、乳製品などを中国に輸出しており、2025年の同国向け輸出額は約35憶ドルに達したという。発展途上国にとって経済の縁はなかなか切れない。
<グリーンランド、北極海>
トランプ大統領はもともとグリーンランドの領有について1期目政権時代から強い意欲を示していたが、2期目に入って、その傾向を露骨に表し始めた。同島上空が中国、ロシアから米国に至る大陸間弾道弾(ICBM)の飛行ルートに当たっているという安全保障上の観点から、この島に注目したのが一点。
だが、そればかりでなく、ビジネスマン上がりのトランプ氏らしく、島にある天然資源や北極海航路の確保にも着目した。北極海にはすでに最大の沿岸国ロシアのほかに、北極評議会(北極海に面した8カ国で構成)のオブザーバー国でしかない中国も強い進出意欲を見せているので、米国は両国に対抗する上からも同島の地政学的重要性を認識したようだ。
中国もグリーンランドの資源に関心を示し、国有企業をオーストラリアにかませて開発を進めている。現在、同島に入っているオーストラリアの資源開発企業は「エナジー・トランジション・ミネラルズ(ETM)」と「タンブリーズ・マイニング(TM)」。
TMの方は米国とデンマーク政府に説得されて中国資本は入っていないが、ETMのプロジェクトには中国の大手国有企業「盛和資源控股公司」が参入。ETMの株式12・5%を取得し、レアアースの採掘事業に参画しているという。
中国は現在、レアアース精錬で世界の9割を抑えているが、さらにその戦略物資としての価値を高めるため、国内以外でも同資源占有を図っているようだ。
トランプ大統領はこうした中国の独占が許せないようで、2月4日、日本やEUなど55カ国・地域の閣僚を集めて重要鉱物、実質的にはレアアースの安定供給を目指す国際会議をワシントンで開いた。
最低価格を設定して中国に圧力をかけると同時に、中国抜きのサプライチェーンの構築を急ぎたい考えだ。トランプ氏がグリーンランド領有に意欲を見せるのはこの資源狙いに大きなウエートがある。
同島にはレアアースにとどまらず、ウランや亜鉛もある。一方、中国は同島に定期的に観光客を送るとともに、国有企業の「交通建設公司」が同島での飛行場建設プロジェクトへの入札をデンマーク政府に打診している。
グリーンランドはまた、北極海への支配力確保という視点からも注目されている。中国が同島に国有企業を進出させるのも北極海をにらんだ動きだ。地球温暖化によって北極海ルートがアジア・欧州間の主航路になると見て、盛んに影響力を強めようとしているのだ。
それに関連して、親中国の香港誌「亜洲週刊」に最近、面白い記事が掲載された。1920年のパリ会議で調印された「ノルウェー領スヴァールバル島の取り扱いに関する多国間条約(1925年発効)」に、中国の北洋軍閥である段祺瑞政権が参加、調印していたというのだ。
スヴァールバル島は北極海上にあり、1920年以前は、欧米諸国民らが同島に自由に立ち入っていた。このため、関係国間で改めて条約を締結。ノルウェー領土と決めたものの、従来のいきさつから条約加盟国民はノルウェーの管理を受けず自由に入島できることを保証した。
したがって、条約締結に加わった中国人も現在、「自由にスヴァールバル島に入り、居住、研究ができる権利を持つ」のであり、北極海に関しても「関与の法的根拠はある」と主張している。中国は100年前の、しかも一軍閥が参加した条約を“盾”にして今後、北極海進出を正当化してくるようだ。
これに対し、アラスカ州を足場に北極評議会の正式メンバーである米国は中国の露骨な北極海進出に苦々しい思いを抱いていよう。ドンロードクトリンの上からも中国の影響力拡大は排除したいと考えているに違いない。
<ドンロー主義への欧州対応>
ドンロー主義よる米政権の強硬姿勢を欧州各国はどう見るか。トランプ大統領は2月初めに開かれた国内政財界パーティーのあいさつで、「カナダは(米国の)51番目の州、グリーンランドは52番目、ベネズエラは53番目の州になる)などと述べた。冗談とも本気ともつかない発言だけに、パーティー列席者ばかりでなく、世界を驚かせた。
EU諸国は、NATO同盟国との協調性を示さない、こうしたトランプ氏の傍若無人姿勢に不快感を募らせ、米国離れの傾向を強めている。その一方で、中国への再接近を模索している。
マクロン仏大統領が昨年12月、さらにはアイルランドとフィンランドの首相、スターマー英首相が今年1月に相次いで北京を訪問した。中国はデフレ不況の中に真っただ中にあり、EU諸国にとって必ずしも経済的な成果が得られるとは思えないが、それでも中国詣でするのは、トランプ米政権への当てつけ、牽制の意味があるのは間違いない。
EUのフォンデアライエン委員長(首相に相当)は1月17日、サンパウロで開かれた南米5カ国でつくる関税同盟「メルコスル」とEUとの合同会議に出席し、約25年にわたって交渉を続けてきたFTA(自由貿易協定)に調印した。彼女は同月27日にはインドを訪れ、モディ首相と会談。2007年から続けていたFTA交渉で合意に達したことを明らかにした。
長い時間をかけてきたFTAの妥結を急いだのは、やたら高関税を乱発するトランプ氏への反発に違いない。ドンロー主義の真の攻撃目標が中国であることは分かっているが、そのカモフラージュのために西側同盟国にも高関税を掛ける姿勢に、EU指導者は腹に据えかねる思いを抱いているようだ。
トランプ氏は1月下旬、スイスで開かれる世界経済フォーラム(ダボス会議)に出席したが、マクロン大統領は日程をずらしてトランプ氏との接触を避け、フォンデアライエン委員長はグリーンランドに絡む関税上げの脅迫には「断固とした対応策を取る」と明言した。
また、カナダのカーニー首相は「大国間のはざまにある国々は、ともに第3の道を創り出す選択肢がある」と述べ、米国を排除した経済、貿易の連携を呼び掛けた。
米国の外交政策を歴史的に見ると、民主党は国際協調主義、多国間主義を取り、共和党には一国主義、単独行動主義の傾向が見られる。ただ、歴代の共和党大統領は対外的に行動を起こす時、一応大義や理由を示す。
ブッシュ・ジュニア大統領が2003年、イラクで軍事行動を起こす際も「サダム・フセイン(大統領)が大量破壊兵器を持っている」などの理由を並べた。
ところが、トランプ氏の一国主義はこれまでとちょっと質が違う。「米国ファースト」には民主主義、自由、人権、環境を守るといった大義や国際正義がなく、場合によっては慣習国際法も頭にない。米国の覇権確立、経済的な利益優先であり、時にはトランプ氏個人の企業優先とも見られる。
MAGA(make America great again )とは「米国を再び偉大にする」の意味だが、実質的にはMASA(make America selfish again)、つまり「米国(あるいはトランプ)を再び自分勝手にする」の意味合いが強いように思われてならない。
トランプ米政権のドンロー主義は結局、中国ばかりでなく、西側同盟国との信頼関係をもなくし、やがて米国を世界の”孤児“にしてしまうのかも知れない。(了)
