大西康雄 (科学技術振興機構特任フェロー、SAPA法人会員・里格法律事務所顧問)
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政府の経済対策は
以下では、当面の景気動向要因への政府の経済対策を中心に分析する。出発点は、7月24日に開催された中国共産党中央政治局会議である。
同会議のコミュニケでは、今年下半期の経済工作の重点として、①質の高い発展の着実な推進、②需要の回復・拡大、③現代化産業体系の建設加速、④改革開放の深化と「二つ」=「公有制経済維持、民間経済奨励」の堅持、⑤重要領域のリスク防止・解消、⑥民生保障の強化、を挙げている。
同会議の決定を受けて、経済政策官庁(発展改革委員会、財政部、人民銀行、国家税務総局、工業・情報化部、商務部、文化・観光部、市場監督管理総局)が次々と会議を開催し、政策を打ち出すとともに記者会見等で積極的に発信するようになった。
まず、8月にマクロ経済政策官庁である人民銀行が政策金利(ローンプライムレート)を引き下げた。引き下げは6月(1年物・5年物とも0.1%引き下げて3.55%・4.20%へ)に続くもので、今回は1年物のみ0.1%引き下げ、5年物は据え置かれた。
同行はさらに小型・零細企業や民営企業への貸出強化による支援を打ち出している。これはカウンターシクリカルな金融政策であり、資金供給を増やすことによって消費(ローンプライムレートは住宅ローンに適用される)や投資を促進する狙いがある。
次いで、財政部が地方政府特別債(地方政府向け移転支出)の実行を急ぐよう指示した。同特別債の今年の枠は2.19兆元(約43.8兆円)ある。これは、地方政府の財政難を救済するとともに地方政府が主体となっている不動産投資を下支えする意味がある。
具体的な取り組みは
マクロ経済環境の緩和に加えて個別施策が立案・公表されている。その内容は多岐に渡るが、上記した景気を左右するポイント別に整理しておこう。
(1)「消費の息切れ」対策:発展改革委員会が「消費を回復・拡大する措置に関する通知」を出した。重点は、①自動車、電子製品などの大口商品の消費促進、②サービス消費拡大、③農村消費促進、④消費施設の整備、⑤新しいタイプの消費拡大、⑥消費環境の改善、の6つである。
(2)「不動産分野に代表される投資の不振」対策:発展改革委員会が「民間投資促進政策に一層しっかり堅実に取り組み、民間投資の積極性動員に努力することに関する通知」を出した。重点は、①政策目標の明確化:各地方で民間投資が投資全体に占めるウェイトを引き上げる、②重点分野に的を絞る:国家重大プロジェクト、脆弱部分補強プロジェクト、重点産業チェーン・サプライチェーンプロジェクト、特許経営プロジェクト、を集中的に支援する、③保障メカニズムの整備:民営企業の資金難、土地等の生産要素不足の問題解決のため、各地方が支援を必要としている民間プロジェクトをリストアップし、集中的に保障する、④良好な環境整備:民間投資の届出・許可プロセスを圧縮するなど投資の前段階の効率化を図る、といったことである。