中国の『人民法院報』2025年8月6日付1面および3面に「最高人民法院、医療保険詐欺犯罪を厳正に処罰した典型事例を発表(最高法発布人民法院依法厳懲医保騙保犯罪典型案例)」という記事が掲載されました。これによれば、2025年8月6日に最高人民法院が医療保険詐欺犯罪を厳正に処罰した4件の典型的な事例を発表したとのことです。
ここでは、そのうちの1件について見てみます。その事例は、以下の通りです。
【事例】2023年8月以降、被告人Aは医薬品を転売して利益を得る目的で、医療保険制度を悪用し、保険証を持って複数の医療機関を繰り返し訪れ、虚偽処方を行わせ、そこで得た医薬品を低価格で他人に販売していた。Aは心脳血管疾患、精神疾患、喘息などの病歴がないにもかかわらず、これらに対応した各種医薬品を虚偽処方させ、その価格は22万元余りに上った。
さらに、2023年11月2日にAは甲病院の入口で被告人Bと知り合った。Bの指示のもと、Aは保険証を使って複数の医療機関で医薬品を購入し、その価格は8万元余りとなった。Bは、これらの医薬品がAによる医療保険詐欺によるものであることを知りながら、低価格で買い取った。
この事件に対し、人民法院は審理の結果、Aが不法占有を目的として、虚偽の事実を捏造し国家医療保険基金に対し詐欺を働き、その額が巨額に上るため、その行為は詐欺罪を構成すると認定しました。さらに、Bは他人に指示し、医療保険を騙して購入させ、さらに違法に買い取っており、その金額は比較的大きく、Bに対しても詐欺罪が成立すると判断しました。結果としてAは詐欺罪で懲役3年2ヶ月および罰金3万元に処されBには懲役1年7ヶ月かつ罰金2万元が処されました(江蘇省南京市六合区人民法院判決)。
この裁判結果を見ると、ただの医療保険制度に対する詐欺行為のように見えます。しかし、問題なのは、このような行為が典型事例として最高人民法院が発表しなければならないほど、中国では医療保険制度に対する詐欺事件が頻発していると考えられることです。
しかも、今回の事例からも単独犯ではなく、指示をしたりといった構造もあり、今回の事例については、関係者が全員実刑を受けていますが、指示をしていた者は必ずしも刑事裁判にかけられるとは限らず、逃亡してしまうのではないかという虞もあります。いずれにしろ、日本人にとっては有罪となって当たり前の事例に見えますが、中国社会の根深い犯罪の一端が見える事例です。