米中対立における米国の戦略は、①インド太平洋戦略と②経済安全保障戦略である。インド太平洋戦略は米中の覇権競争がインド太平洋で起きているという認識に基づく地域戦略であり、経済安全保障戦略は米中競争が先端技術分野で起きているという認識に基づく経済戦略である。インド太平洋戦略、経済安全保障戦略はトランプ政権が始め、バイデン政権が継承・強化している。
インド太平洋戦略は、豪州、インド、EUや英国、フランスなど欧州諸国に加え、2022年12月末に韓国も発表した。各国のインド太平洋戦略の内容は同じではないが、中国の脅威への対処という視点では一致している。これらの国が参加するミニラテラルな枠組みとして、Quad(日米豪印)と豪州への原潜配備を目的とするAUKUS(米英豪)が形成されている。一方、ASEANは中国を排除しない独自のインド太平洋構想(AOIP)を発表している。経済安全保障については、日本、豪州とEU諸国が米国と連携しており、IPEF(インド太平洋経済枠組み)に14か国が参加している。韓国も尹政権になってからIPEFに参加し、サプライチェーンの強靭化など経済安全保障に積極的になっている。
それに対し、中国は地域戦略として一帯一路戦略を展開している。このうち一路戦略(海のシルクロード戦略)が中国版のインド太平洋構想である。インド太平洋戦略は一帯一路戦略に対抗し代替策として提唱されている。経済戦略については、自立自強戦略を進めている。自立自強戦略は、双循環戦略の一環として実施されている。米国の経済安全保障戦略は先端技術・基盤技術の脱中国依存と中国へに流出を防ぐ目的があり、自立自強戦略は脱米国依存を目的としている。
アジアの多くの国は、米国と経済や安全保障で協力を進める一方、中国は最大の貿易相手国でありFTAを結んでいる国も多い。一帯一路にもASEAN各国は全て参加している。経済的な利益を確保しながら、米中対立の舞台であるインド太平洋をどのように航行するのか(how to navigate) 、今年を含め今後数年は極めて重要な年になる。
双循環戦略については、大西康雄編「中国の双循環(二重循環)戦略と産業・技術政策-アジアへの影響と対応」科学技術振興機構、が多角的かつ詳しく論じている。