(この記事は2019年7月、当協会のブログに掲載されたものです)
韓国向け一部の半導体材料の輸出について、日本政府は7月4日から国内の輸出者に対し個別の許可申請を求め、審査をすることになりました。具体的には半導体やディスプレーの材料となるレジスト(感光材)、エッチングガス(フッ化水素)、フッ化ポリイミドの3品目を指し、これらが対象になる輸出は個別契約ごとに経済産業省の許可を取ることが必要になります。今回は「外国為替及び外国貿易法(外為法)*1」の観点から一連の行政手続きをチェックしてみましょう。
まず、外為法は輸出の許可等(第48条)について「国際平和と安全の維持の妨げにならないよう、特定地域向け軍事転用の恐れのある輸出について政令で定めるところにより経済産業大臣の許可を受けなければならない*2」と規定しています。その政令にはリスト規制、補完的輸出規制(キャッチオール規制)があり、外為法を根拠として輸出者はこの2つの観点から確認を行う必要があります(2002年4月導入)。
制定された当時は核開発を行う北朝鮮問題がクローズアップされ、小泉首相(当時)の電撃的な訪朝で北朝鮮は拉致を認め、生存していた5人の日本人が帰国しました。これと前後して、日本では安全保障の面から軍事転用の恐れのある輸出品の規制を強化する必要があり、政府は厳格な審査を国内の輸出業者に求めました。ただ、一律にこの規制を導入した場合、審査に90日程度かかるため、これまで輸出してきた安全保障上の問題のない取引まで支障をきたすことになります。そこで、兵器の拡散を行わないことが明白である国は上記の規制の例外となり、これら国をホワイト国*3とよんで、27か国が指定されています。つまり、この例外指定を受けた国への輸出は包括許可になり、輸出者の判断で輸出することが可能になります。
2019年6月末、韓国はアジアで唯一のホワイト国でした。韓国はOECDに加盟する先進国であり、北朝鮮政策では日韓ともに連携していく国です。しかし、経済産業省は個別輸出許可への切り替えと同時に、韓国をホワイト国から削除する意見募集(パブリックコメント)を始めました。その理由として、同省は信頼関係の下に輸出管理に取り組むことが困難になっていることに加え、不適切な事案が発生したためとしています。
一般にマスコミでは韓国への輸出規制の強化と報道されますが、これまでの経緯を見ると、ホワイト国は個別審査を不要とする優遇措置になります。2004年に指定された韓国は、これまでその優遇措置を受けており、今回それが撤廃されたとも見受けられます。包括許可が優遇措置になるなら、個別審査への発動は規制強化というより、優遇がなくなったとも言えなくはないでしょうか。
水野 通雄(みずの みちお)
*1 1950年3月31日施行。2017年5月24日改正施行
*2 原典は「国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない」
*3 外為法輸出貿易管理令別表第3