世界経済 World Economy
ASEANで中国に対する反ダンピング関税やセーフガード(緊急輸入制限)という輸入規制の発動が相次いでいる。ダンピングとは国内価格より低い価格で輸出することであり、ダンピングにより国内産業でに被害がでていることが調査により明らかになった場合反ダンピング関税を課すことができる。セーフガードはある製品の輸入急増により国内産業に重大な被害が生じた場合その製品の緊急輸入制限を行う措置であり、ともにWTO協定で認められている。
実際、中国からASEANへの輸入は増加している。2024年の中国の対ASEAN輸出は前年比12%増加しており、とくにベトナム向けは17.9%の増加だった。今や、ASEANは米国、EUを抜いて中国の最大の輸出先である。輸入の急増は2025年に入っても続いている。そのため、国内産業に工場閉鎖や人員解雇などの損害が生じており、インドネシアでは2024年に繊維産業で8万人がレイオフされ、25年は28万人に拡大する恐れもあるという。
そのため、インドネシアでは繊維製品とセラミックへのセーフガードが発動され、ポリエステル短繊維や圧延平鋼への段ダンピング関税が発動された。また、電子商取引で輸入される100ドル以下の小口輸入が禁止され、中国の通販サイトTEMUへのアクセスが制限された。マレーシアでは鉄鋼製品への反ダンピング関税が発動され、10万リンギ以下のEV輸入禁止、電子商取引による低価格品の輸入に10%の付加価値税が課税された。タイでは熱延コイルとアルミニウムに反ダンピング関税が発動され、電子商取引による小口輸入に対し7%の付加価値税が課されている。ベトナムではアルミニウム、鉄鋼、プラスチック、風力タワーに対し、反ダンピング関税が課されている。
ASEANへの中国からの輸入急増には3つ要因がある。①中国の過剰生産能力、②米国の対中追加関税、③電子商取引を利用した小口輸入である。中国の2024年の小口貨物輸出は30.3%増だった。中国の過剰生産能力は2010年代から問題とされており、国内の過当競争と価格低落、ダンピング輸出の急増を招いている。構造的な問題であり、短期的な解決は困難である。米国の対中追加関税はトランプ1.0で開始され、2.0で加速している。対米輸出が困難となった中国製品はASEANなど他の国に向かっている。米中の関税戦争も短期的な解決は難しい。小口輸入は各国で課税や禁止措置がとられている。
中国とASEANは相互に最大の貿易相手となり、中国の最大の投資先はASEANなど経済関係は米中対立の激化と共に急速に拡大している。経済関係の拡大深化によりASEANは経済的利益を得ているが、こうした輸入急増による自国の産業への損害という問題も起きている。これらの問題に対してはWTOで認められている輸入規制により当面対応することになろう。
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