第一期トランプ政権で追加関税が課されなかったASEANに追加関税の可能性がでてきた(日本、韓国、インドなども同様)。米国の対ASEAN貿易赤字が急増したためだ。2024年の米国の対ASEAN赤字は2,305憶ドルで世界2位の規模になる。ASEANで最大の貿易赤字先はベトナムだ。対ベトナム赤字額は1,243億ドルで世界3位である。続いて、タイが456億ドルで11位、マレーシアが248億ドルで14位、インドネシアが178億ドルで15位などASEAN各国は上位にくる。対中赤字額は2,954億ドルであり、近い将来ASEANが中国を抜かす可能性がある。
対ASEAN貿易赤字が急増した理由はASEANからの輸入の増加である。2018年から2024年の輸入額をみると、中国からの輸入が18.2%減少したのに対しASEANからの輸入は83.6%増加した。カンボジアは3.3倍、ベトナムは177%、タイは98%の大幅増である。米国の輸入で中国からASEANへのシフトが起きているのである。その契機は2018年の4度の25%対中追加関税導入である。対中追加関税を回避するために中国企業・在中国外資企業は中国からASEANに生産拠点を移した。2018年から2024年に中国からASEANへの製造業投資は4.4倍増加した(迂回輸出)。
ASEANへの追加関税は相互関税になる見通しだ。ASEANで平均関税が高いのはタイ(9.8%)、ベトナム、ラオス、インドネシアである。平均関税が低くても高い関税の品目は少なくないので、その他の国も相互関税の可能性がある(シンガポール、ブルネイを除く)。米国が課す相互関税は当該品目のASEANの関税率になる。ASEANの税率が米国の税率より低ければ相互関税は課されない(ただし、非関税障壁があるとみられると課される可能性がある)。ASEAN(および日本、韓国、インドなど)から米国に輸出を行う企業は、輸出品目の自国のMFN関税率、米国のMFN関税率と非関税障壁の有無をまず調査すべきであろう。