ASEANは米中対立下で中立外交を行っていることは良く知られている。正確には、米中両国と緊密な外交・経済を維持しており、均衡外交あるいは二股外交と言ってよい。米中間でASEANが二股外交を行う理由は、米中両国との緊密な経済関係だ。中国とASEANは相互に最大の貿易相手国であり、米国は中国と並ぶ輸出相手であり最大の投資国である。米中両国とASEANの経済協力も活発である。中国は1991年にASEANと公式外交関係を開始したが、FTAを締結し一帯一路による協力を実施している。中国ASEAN博覧会、中国ASEANセンター(北京)、デジタル協力など個別協力は200を超える。米国はASEANとのFTAはないが、IPEFにASEAN7か国が参加しASEANコネクトなど多様な協力を実施している。ASEANは米中双方との経済関係により多大の利益を得ており、どちらかを選ぶのは非現実的であり国益に反するのである。
日米が進めているFOIP(自由で開かれたインド太平洋構想)には加わらず、ASEANは中国との協力を含むAOIPを発表した。最近では、タイ、マレーシアが中国ロシア主導のBRICSに加盟申請を行い、同時に西側主導のOECD加盟申請も行った。ASEANは中国封じ込めや中国敵視策には賛成しない。アジア版NATOにASEANが参加することはありえない。中国と国境紛争を抱え、貿易摩擦もあるインドは、Quadに参加し、IPEFのメンバーであるが、同時にBRICSの原加盟国であり、中国が主導する上海協力機構(SCO)のメンバーでもある。戦略的自律を国是とするインドもアジア版NATOに参加する可能性は小さいだろう。
金沢のセミナーでインドネシアの新聞にNO Asian NATO と一面に大きく出ていたとの発言があった。これがASEANでの受け止めである。インドネシアもBRICSに入る意向だ。ロシアと中国が主導するBRICSに入る国がアジア版NATOに入るだろうか。アジアの現状をよくみるべきだ。
アジアの安全保障は米国が入らないと有名無実だ。その米国は海外での防衛費負担を減らそうとしNATOからの脱退を口にしたトランプが大統領になる。トランプへの対応が先だろう。
ASEANとでなく、アジア版NATOで独自にスレッド建てした方がいいかな。今年の1月に講演をしていただいた泉裕泰大使がアジア版NATOについて推敲されましたので、こちらでも案内します。
https://www.spf.org/spf-china-observer/index.php?prev=1&p=document-detail064.html
NATOからの脱退を言明したことのあるトランプが再選された。米国の海外での防衛費負担を減らすのに熱心であり、アジア版NATOの可能性は完全になくなったといえよう。
NATOは、仮想敵国がソ連とワルシャワ条約機構だった。アジア版NATOは中国、そしてロシア、北朝鮮になるのだろうか。ロシアはASEANの対話国であり、ASEANへの武器輸出国である。ベトナムとソ連は友好国だったし、ASEANでロシアの脅威を感じている国はないだろう。インドにとってもロシアは武器輸出国であり、友好国だ。北朝鮮は韓国や日本の重大な脅威だが、ASEANやインドは脅威を感じない。ASEAN加盟国と北朝鮮は国交があり大使館がある。アジア版NATOには、アジア各国に共通する脅威となる国はないのが現実だ。